北九州と福岡でフランス文学者・野崎歓さんの講演会
小倉駅近くの「秘密基地」というカフェで行われた野崎歓さんの講演、「文学の国、フランスへのお誘い」(11月23日)は、今年のフランス大統領選のエピソードから始まりました。マリーヌ・ルペンとエマニュエル・マクロンとの直接対決に決着をもたらしたものは、意外なことに「文学」だった、というサプライズ。ルペンのトランプ的な論理に「ペルランパンパン」という17世紀の単語で反撃したマクロン、他方「文学」をまるで理解できなかったルペン。マクロンに勝利をもたらしたものこそフランス文学だったという実に意外な観点から、いまだにフランスが文学の国であることを説かれました。なるほど、そうだったのか!、と一驚でした。そもそもフランスという国家やフランス語は17世紀に出来上がったもの。英語よりフランス語が高級で優勢で、ヴェルサイユ宮殿を造ったルイ14世のころから、「宮廷」のコトバ、フランス語がヨーロッパ各国の宮廷を席巻していったという歴史も、なるほどそうだったのか! とひざを打ちたくなるほど。だめ押しとして、トルストイやドストエフスキーもフランス語でバルザックを読んでいた、などとなると、もうびっくり仰天ですね。
翌日の「フランス文学と愛」(11月24日)は、ごく少数のフランス語およびフランス文学愛好者だけの小さな会でしたが、こちらの講演もじつに楽しく、じつに考えさせる内容でした。フランスでないフランス語圏、スイスのジュネーブからやってきたルソーが、フランス思想界やフランス文学界を「なぎ倒して」席巻してしまったさまを、じつに楽しいユーモアで包んで話されました。ルソーこそ「回想録」でない「自伝」文学の創始者だったこと、はじめて「子ども時代」が人間形成のうえで重要であること主張したこと、それにも関わらずみずからの子どもはすべて孤児院に送ってしまったという矛盾、さらに年上の人妻との「アムール」というフランス文学界の大伝統をつくったこと。以後のスタンダールもバルザックも、ロブ・グリエにいたるまで、「ルソーになぎ倒された世代」であること。スタンダールの「赤と黒」にもバルザックの「谷間の百合」にも、みんな「ルソー印」がついていること、などなど、実に楽しく巧みに、しかし「なるほど、そうだったのか!」と手を打ちたくなるほどの創見にみちたお話しでした。そして極めつけは20歳以上の年の差ある「マクロン大統領」の奥さんと文学好き。そして最後に「サプライズの隠し球」として「ミッテラン大統領」の愛人と隠し子事件。その当事者が、ついにミッテランとの手紙のやりとりを大冊にして出版したこと。ここにも脈々とフランス文学の伝統が息づいているのだというお話しでした。そして、だれでもフランス人になれる、だれでもフランス文学に参加できる、そういう開かれた「共和国」の理念の大切さについても語られました。テロリズムに襲われたフランスだからこそでしょうね。
「文学の国フランスへのお誘い」(野崎歓さんの講演)
北九州の「コワーキングスペース秘密基地」という魅力的な名前の会場で、フランス文学の野崎歓さんによる「文学の国フランスへのお誘い」。私も福岡から駆けつけます。
http://fukuoka-unesco.or.jp/%e6%96%87%e5%ad%a6%e3%81%ae%e5%9b%bd%e3%83%95%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%81%b8%e3%81%ae%e3%81%8a%e8%aa%98%e3%81%84.html
ブレイディみかこ氏による福岡ユネスコ講演会(8月19日)
福岡ユネスコ講演会が開催されます。講師は、いま注目のブレイディみかこ氏(保育士、ライター、英国在住)、演題は「英国のいま、そして日本は?」、会場は、エルガーラホール7F・多目的ホール、2017年8月19日(土) 14:00からです。
私も、質問担当として、参加します。詳しくはここ。
村上春樹さん、ノーベル文学賞、残念でしたね。
村上春樹さん、ノーベル文学賞、残念でしたね。
さて、事前に新聞社から依頼されていた、受賞についてのコメント、短時間で書いたもので、不出来ではありますが、お蔵入りさせてしまうのも、ちょっと心残りなので、新聞社エディット・バージョンでお目にかけることにいたします。(じっさいにはさらに縮小されたものが掲載される予定でした)。
「村上春樹さんの作品は、物語の力の復活を、私たちに確信させてくれた。それが全世界の若者たちの心をつかんだ理由でもあり、ノーベル文学賞受賞の大きな理由でもある」。そう語るのは九州大大学院教授の安立清史さん。村上作品が支持される理由について「外側の世界にドラマがあった冷戦までの時代から、私たちの内面にこそ深いドラマのある時代への転換を深くとらえたから」とみる。「『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』がその典型。不自由で抑圧された現実世界から脱出することに解決があるわけではなく、この現実の中にとどまりながら深く内面世界を潜水していくことが、これまでにない新しい世界への入口になるのではないか、というサプライズな結末を提示して大きな論議をよんだ」と分析する。
「『物語』に乗船していくと、いつのまにか潜水して、内面の隠れていた別世界へと導かれ、そこで、これまでになかった世界と自分との和解の糸口が与えられる。そういう不思議な肯定感のある物語を紡いできた。ノーベル文学賞に値する世界文学を、私たちは身近にもっていることを喜びたい」。
(写真は2005年、ボストンに暮らしていたときにマサチューセッツ工科大学で見かけた村上春樹の講演会のお知らせです。日本では人前にあらわれませんが、海外だと、けっこう人前で話しているようです)。
大山町での安立ゼミ合宿 その1
9月月末の二日間、2年生と4年生の安立ゼミ合宿に行ってきました。大分県日田市大山町です。ここは農業や地場産業への先進的な取り組みで有名なところです。
大山町でカリスマ的な町おこし行政マンとして活躍してきた緒方さんや、町づくりのコアメンバーの方々と、ゆっくりと懇談できました。学生たちも、フィールドワークや夜の懇親会で、大いに盛り上がりました。
大山町の歴史をふりかえると・・・
「大山町では、政府がまだ米の増産を推進していた1961年に、米作には不適な山地の地理的特性を生かして、作業負担が小さく収益性の高いウメやクリを栽培し、さらに梅干し等に加工して付加価値を高めるNPC(New Plum and Chestnut)運動を開始した。「梅栗植えてハワイに行こう!」というユニークなキャッチフレーズで知られるこの運動は、農家の収益の向上に寄与し、大山町は全国で最も住民のパスポート所持率が高い町になった。この運動は、後の一村一品運動の原点としても知られている。大山町ではその後も、2000年に地元産の有機農作物を使ったバイキング料理のレストラン「木の花ガルテン」を町内にオープンするなど、先進的な取り組みを続けている。」(ウィキペディア)
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