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大島弓子さんが文化功労者、突然の報にびっくりしました。何十年も前、私が大学生となって駒場の文学サークルに入ると、少女漫画ずきの男子が何人かいました。私はこういう人たちがいるのが大学かと驚き、そして読んでみました。中でももっとも強く何かを感じさせてくれたのが大島弓子の作品でした。少年漫画とは明らかに違う精神性のようなものがありました。そして同時に少女漫画という狭いジャンルを突き抜けていく疾走力がありました。死の影のある生という特徴的な主題は、年譜をみると「誕生!」あたりからではないでしょうか。堀辰雄みたいな世界から始まり、みるみる高みに登っていって1975年あたりから独自の世界観を確立していったようです。世評が高いのは1978年の「綿の国星」でしょうか。私はむしろ1980年代以降の作品に惹かれます。特徴的なのは漆黒の死の世界の中にたった一人放り出されて、そこで絶望するのでなく、意想外の発想へと飛躍する場面です。いま、たくさんは思い出せませんが、たとえば「秋日子かく語りき」における「ベンジャミン」です。これは凄い、本当に凄い。読まれていない方は何のことか分からないと思いますが、死にゆく人が、観葉植物ベンジャミンに託して、家族の思いを探ろうとするのです。この突出した発想とその説得力、そして悲しみの中からあふれてくる喜び。これこそ、大島弓子の真骨頂ではないかと思います。