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「非営利を救出、再活性化を」(西日本新聞、2021年5月22日)

 

ボランティアは本来、非営利の利他的活動であった。本書は、この「非営利」に注目する。今や消滅しつつある非営利に、なおポジティヴな可能性がある、と。前半では、現代の日本社会が抱える問題が3点、具体的に提示される。第一に、グローバル化Jに伴う雇用と労働環境の劣化。この文脈で、政治哲学者ハンナ・アーレントが、「労働」(生命維持活動の一種)に「仕事」(世界に有意味なものを残すこと)を対置したことの意義が強調される。第二に、「介護の社会化」の行き詰まり。第三に、超高齢社会の中で、地方が、トリアージ(命の選別)のやり方で見捨てられていること。ならばどうしたらよいのか。

本書は、非営利に解決の鍵があると示唆する。だが~純粋に非営利のボランティアは、「NPOへの経営論的転回」(仁平典宏)の中で消減しようとしている。ボランティアは、経営体と化したNPOに吸収され、資本主義の補完物になりつつあるのだ。この状況に対抗して、非営利を救出し、再活性化させるために、本書は二つの興味深いことを提案している。第一に、見田宗介の「交響圏とルール圏」という社会構想を応用すること。交響圏とは、友愛によって結ばれた共同体のことだ。己のような共同体は小さい。多様な交響圏が共存するためには、ルールが必要になる。たとえば交響圏の中であれば、純粋な非営利が活きるだろう。

第二に、非営利を、現実の組織や実体としてではなく、想像力として維持すること。「想像の共同体」は、B・アンダーソンがナショナリズムを記述するために導入した概念だが、本書は、これを換骨奪胎し、非営利が、理想や夢を失わずに生気を維持するための想像上の参照点という意味で使用している。その原型は、『ナウシカ』の「風の谷」である。

現代社会の問題を考えれば考えるほど、閉塞だけが見えてくる。しかし本書は、出口はある、と私たちを元気づける。「非営利」という道標を辿って行けば、そこに着く、と。

評・大津真幸(社会学者)