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 今年の5月に福岡ユネスコ協会で講演してもらった四方田犬彦さんの旧著『白土三平論』(ちくま文庫)、大冊ですが、ようやく読み終わりました。白土三平といっても今の若者で知る人はほとんどいないでしょう。でも白土三平の『忍者武芸帳』や『カムイ伝』『カムイ外伝』など、ほんのちょこちょことつまみ食い的にしか読んでこなかった私としては、はじめて白土三平の全貌に触れたような感じです。白土三平は、よく「唯物史観にもとづいた忍者漫画」などと言われますが、そんな図式的な薄っぺらなものでなく、もっと奥行きのある波瀾万丈のドラマなんですね。でも、忍者はどこから来たのか、忍者がなぜあらわれるのか。忍者が「抜け忍」となって、忍者から追われるのはなぜなのか。そのあたりになると、差別と非差別、体制と反体制、反体制の中のさらなる争い、などとなって、あぁ、これはたしかに1960年代の時代状況にあった大人気マンガだったのだなぁ、と納得しました。表にでてこない反体制の忍者という存在に、ある意味、ゲリラのような、社会に対抗する少数者あるいは「革命者・工作者」のイメージが重ね合わされて、しかもそういう忍者への肯定的な感情移入が可能だった時代のものなのだなぁ、とあらためて感じました。忍者は、いまだったら「テロリスト」として一蹴されてしまうでしょう。とんでもない「反社会的存在」としてレッテルを貼られて、カムイのようなヒーローになりにくいのではないでしょうか。でも、わずか30数年前には大ヒーローだったのです。その忍者が、いまや正反対のテロリストとして読まれてしまう。しかし……ということはあと30数年すると、ふたたび価値転換、イメージ転換がおこって、カムイのようなヒーローが再登場してくることもありうるかもしれない。マルクスだっていま読み直されはじめているし……そういうことも考えさせられました。



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