沢木耕太郎の新刊『旅のつばくろ』を読んでいたら身につまされる話に出会った。「書物の行方」という掌篇である。軽井沢から「しなの鉄道」にのって信濃追分で下車して堀辰雄文学館を訪ねる話である。私も数年前、まったく同じルートで同じところを巡った。そして文学館前にある古書店を訪ねて、むかいの蕎麦屋で食して……というところまで同じだった。違うのはそこからである。沢木は古書店主に尋ねる。こんなところで、どうやって本を仕入れているのか、と。その答えが驚くべきものだった。いまや古書業界が流通過剰になっている、というのだ。「6、70代の男性がいっせいに本を処分なさそうとしているせいです。この方たちが紙の本を大量に買った最後の世代なんだと思います」という。たしかに、その通りなのかもしれない。私もまさに数年前、大学の移転にともなって大量の蔵書を処分したところだ。数年後には、また大量に処分しなければならない……。身につまされるような、悲しいような、何かの時代が終わりつつあることを実感させられるようなエッセイであった。


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