『今こそお寺に言いたいこと』という本が出版されました──これは題名に惹かれてさっそく購入して読んでみました。コロナ禍で未曾有の危機、それより前から「地方消滅」──このままでは「地方」でけでなく、お寺さんもろとも消滅は不可避です。だからこそ「今こそ、お寺さんに期待したい」そう思う人は少なくないはず。お寺さんへの直言、そしてお寺さんからの真摯で斬新な提案を期待して……読んでみると──あれれ、これは肩すかしですね。「今さらお寺さんに言っても仕方がない」と思うのか、どの発言も、なんだこれは。わざわざ本にするほどのものか。はっきりいって怒りを感じてしまいました。じつに残念です。そもそも「各界第一人者による」というコンセプトが良くないのかもしれません。誰一人、本当は、お寺さんに何も期待していない、と言うことが読むと明らかだからです。ただ懐かしい風景を守ってほしい、という、無責任でなおざりな感想に尽きています。こんなものでは羊頭狗肉。わざわざ本にして売るほどのものか、中身を全取っ替えして、もういちど作り直してほしいと真剣に思います。私は個人的に、熊本地震の時に他の県からやってきて、自分のお寺を留守にしてまで、奮闘努力・大活躍したご住職も知っています。そういう本当の宗教家のご住職の心にも届くような内容を期待したいですね。









ボストン・マラソンの季節
例年、この時期にはボストン・マラソンが開催されます(今年もコロナ禍の影響で延期されたようです)。今から16年も前のことになりますが、半年間、ボストンに暮らしました。ボストン・マラソン頃の日々は、ボストンがもっとも美しく輝く季節として、強い印象に残っています。それは世界的に有名なレースでもありますが、むしろその後にボストンの目抜き通りを一日中閉鎖して、何万人という市民ランナーが走り続ける市民のための大イベントとしてのほうが強い印象です。ところで、福岡国際マラソンは、今年をもって、主催者の事情で「終了」することになるそうです。オリンピックもマラソンも、国や政府行政や行政や企業の様々な「事情」で開催されたり中止されたり終了したりするのはですね。ボストンに比べて、市民による市民のためのイベントとしての底の浅さではないでしょうか。
マタ・ハリ3題噺
今月はマタ・ハリものを立て続けに3つ観ました。マレーネ・ディートリッヒの「間諜X27」(1931)、グレタ・ガルボの「マタ・ハリ」(1932)、そして蒼井優の「スパイの妻」(2020)です。百年たっても人気の女スパイものには、しかし男の視点しかありません。だからこれでもかと女スパイの美しさを強調します。美しさを際立たせたうえで銃殺する。勝手なものですね。美しさではグレタ・ガルボが際だっています。内容はじつに陳腐で説得力を欠くラブストーリーなのですが。「間諜X27」の ディートリッヒは独特のニヒルな感じがあります。銃殺シーンでは、あっと驚かすようなどんでん返しの問題提起があります。「スパイの妻」はちょっと肩すかしのスパイ物でした。スリルとサスペンスだけがあって、なぜここまでやるのだ、なぜスパイになるのだ、現実世界をこえる理念や目的があるのか、という理由づけがとても弱いように思いました。
パリ国際大学都市
日本は60年代の学生運動以来、大学の学生寮を廃止してきました。コロナ禍を経験すると、今後も学生寮の復活はないでしょう。でも学生寮こそ若者の共同体の形成の場、新しい若者文化はドミトリーで培われた側面もありますね。私は数年前、パリ国際大学都市で学生寮生活を経験したことがあります。明治の富豪バロン薩摩の寄附で建設された日本館の小さな一室で、シャワー・トイレやキッチンは共用、ホテルに比べるとだいぶ不便ですが、すっかり学生気分にもどってパリの春を満喫しました。様々な留学生たちとも交流しました。みんな将来の夢に満ちていて私も若返った気分でした。いつになったらまた行けることでしょうか。なんだか夢幻のように思えてきました。
パリのシネマテーク(ベルシー)
もう4年前になりますが春休みにパリ国際大学都市に1週間ほど滞在しました。その時に、かの有名なパリのシネマテークに行ってみました。トリュフォーやゴダールのヌーヴェルヴァーグで有名な所です。仏文や映画評論の人たちにとっては聖地です。でもだいぶ前に伝説的なシャイヨ宮内からは移転して、いまはベルシーという、ちょっとはずれの官庁街のようなところにあります。この写真がその新しいシネマテークです。入ってみると、いきなり大きな日本語のポスター「大人は判ってくれない」。「分かってくれない」じゃなくて「判ってくれない」ですよ。有名なトリュフォーの処女作。原題は「Les Quatre Cents Coups」(400回ぶんなぐる)ですからね。映画博物館もあります。スクリーンではちょうど寺山修司の遺作「さらば箱船」を上映していたので観てきました。これが、寺山修司の遺作というのは、ちょっとつらいですね。観客は途中からがんがん席を立っていきました。うーん、きびしいシネマテークの観客たちですね。
「有償ボランティア」の新たな意味づけ(2)
先日の老健事業報告会をオンラインで聴いていただいた方から、たいへん、うれしいご感想をいただきました。
──この報告会に参加しましたが、大変興味ある報告に出会いました。九州大学の安立清史教授の有償ボランテイアに関する研究です。ハンナ・アーレントの「人間の条件」──人間には「労働・仕事・活動」の3レベルがある。「仕事」には自己実現や「生きがい」がある。ところが現代のグローバル資本主義の世界ではすべてが「労働」になっていく。「労働」だけになっていく世界に対して「仕事」(生きがい、やりがい、たすけあい)を回復していくには、どうしたらよいか?「労働」だけでなく、「仕事」や「活動」を回復していくためのひとつの方法が「有償ボランテイア」の中にあるのではないか。というものでした。
いかがでしょうか、私はこの報告を聞いて救いのようなものを感じました。助け合い活動への参加をお願いして多くの説明会をしてきましたが、みなさまの心に届くものが見つかりませんでした。これからは、これをたよりに有償ボランテイアをお勧めしていきたいと思っています。──
令和2年度・厚労省老健事業報告会でオンライン報告しました
紙の本の行方
津野海太郎さんの「読書の黄金時代は終わった」という宣告もションキングでしたが、最近でも友人から「電子書籍の時代です、大島弓子の本も紙媒体では入手できないです」と知らされました。あの大島弓子でさえか。もうすぐ紙媒体の書籍を上梓する私としては、大きなショックです。事態はそこまで来ているのか──でも思うのは、アナログ・レコードのことです。CDが出て、あっというまにレコードは消え去りました。ですが、どっこい生きています。むしろ再ブームと言ってもいい。最近の人気ラジオ番組「村上Radio」でかかるのは、もっぱらアナログレコードですね。むしろCDのほうが音楽配信に押されて消え去りそうです。さて紙の本は、どうなるでしょうか。
図書館奇譚
考えてみると高校生の頃から、自宅で勉強した記憶があまりない。高校、大学、大学院、留学中や在外研究でも、ほとんど居場所は図書館だった。ボストンにいた頃はバックベイに小さなアパートを借りていたので、毎日、ボストン公共図書館に通っていた。こういう公共図書館は、まず日本にはない。そもそも公共図書館と公立図書館とは違うのだ。
さて、昨年の本も、今年出す本も、ほとんど福岡市の図書館で執筆した。どうしてなのだろう、自分でも不思議だ。自宅や研究室のような個室では原稿が書きにくい。思うに、広い空間(とくに天井が高いことがのぞましい)、見知った人がいないこと、匿名の第三者がいること、などの条件が必要なのだろう。それらが執筆に必要な、緊張感と集中力と持続力、を与えてくれるからではないか。個室に一人でいると、ぐだっとなってしまう怠けものなのだ。
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照

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