社会学者の見田宗介先生が亡くなられました。享年84、まだそれほどのお年ではなかったのですね。ご冥福をお祈りいたします。
見田先生は、実質的に戦後日本の社会学を作ってこられた方だと思います。社会学は明治時代から日本に入りましたが、戦前のそれは海外の社会学を翻訳紹介するか、農村調査や統計調査が主流だったと思います。考えてみると、いまでも主流の社会学とは、社会の現実や実態を客観的に社会調査し、それを分析して改善や改革を提言するというスタイルです。この客観的な社会調査という方法で分析するのは、たとえてみれば医者(社会学者)が患者(社会や学生)を検査したうえで診察・治療するようなものです。どこか「上からメセン」で偉そうです。こういうオーソドックス(だが古風な)スタイルを打ち破ったのが見田先生だったと思います。佐藤健二さんの『真木悠介の誕生』に詳しいですが、見田宗介が真木悠介という「もうひとり」を必要としたのは、まさにこの転換があったからだと思います。『気流の鳴る音、時間の比較社会学、自我の起源、宮沢賢治』……どれもこうした大転換を示しています。どんな種類の本なのか名付けようもない本、とご自分でも書かれています。だからでしょうか、好き嫌いが分かれて批判する人も少なくありませんでした。でも現在活躍している社会学者のほとんどは見田先生の影響を陰に陽に受けていると思います。十数年たって、ある日突然、読み返したくなるような本、といったらいいでしょうか。私も昨年から執筆している本のコア部分の論理を考える上で、見田先生の『現代社会の存立構造』を何度も参照しているところでした。なかなか応用することは難しいのですが……何度も読み返す価値があると思っています。









「no art, no life」と「ツナガル・アートフェスティバル福岡」
3月最後の日曜日、春の嵐の翌日、福岡は桜が満開でした。この日、博多阪急デパートで開催中の「ツナガル・アートフェスティバル」で、NHK福岡時代からの知り合いのプロデューサーが取り組んでいるEテレ番組「no art, no life」の映写会とトークのイベントがありました。これたった5分の番組なんですが、それを10本立て続けに見みますと改めて圧倒されました。これ、本当にすごいです。あまり知られていないかもしれませんがスゴイ番組です。アール・ブリュットとか、エイブル・アートとか、障がい者のアートとか、いろいろ言われていますが、そんな表現では言い尽くせません。人間のエッセンシャルな部分に直に触れてくるものだと思います。福祉とか支援とか芸術とか、いろいろ意味づけがあるかもしれませんが、私の印象は違います。これは人間そのもののコアな部分に直に問いかけ、挑戦してくるものです。たった5分の中に世界があります。人間の奥深さ、底知れぬ何かが訴えかけてきます。それは人間の可能性ともとれるし、人間の業や棘のようなものも含まれていて深く考えさせられます。この番組、4月からは時間帯を移してEテレで「日曜美術館」の前の5分番組になるそうです。
no art, no life 〜表現者たちの幻想曲
「ツナガルアートフェスティバルFUKUOKA」が、博多阪急7階イベントホール『ミューズ』で開催されるそうです。NHKで放映された番組「no art, no life 〜令和三年 表現者たちの幻想曲〜」を制作したディレクターと企画プロデューサのトークもあるそうです。この番組、とても面白くて興味深いものでした。上映されるそうです。
https://fact.or.jp/?portfolio=tsunagaru2022&fbclid=IwAR1bWF0H54VI3b1hg0zDESoau7yWzfV-WFaiAVcO2_UhQERH8WNQ8VLbepo
東京大学社会学の佐藤健二さんの最終講義
劇団・黒テントの創始者の佐藤信さんのお話
3月5日の福岡ユネスコ協会アジア文化講演会の終了後に、伝説的な劇団・黒テントの創始者・佐藤信さんから、いろいろなお話をうかがいました。福岡でも何度も公演されたそうです。公園で公演、まるでジョークみたいですが、公演場所ときめた公園の近くの喫茶店でじーっと網をはって一日中待っているのだそうです。そしてそれらしき人が来たら主催者のひとりとなってくれるよう説得にあたるのだそうです。そうやってチケットの販売や様々な協力をお願いするのだそうです。アングラ的ですねー。そうやって20年間に全国120ヶ所で黒テントを張っての野外公演をしてきたのだそうです。すごいですね。1960年代から70年代というのは、そういう文化的な熱気というものがあったのですね。
1930年代から1990年代の「香港映画」
1月から3月にかけて国立映画アーカイブと福岡市総合図書館シネラ等とのコラボ企画で、1930年代から1990年代までの「香港映画」をたてつづけに観ています(すでに20本くらい観ました)。これまで観たことなかったブルース・リーとかジャッキー・チェンとか、Mr.ブーとかキョンシーとか、ジェット・リーとか、映画館の大スクリーンで観ると面白いものですね。香港カンフー映画における決闘の「やりすぎ」な過剰さも、これが香港映画のエネルギーなんですね。キン・フーとかツイ・ハークとか、黒澤明の決闘シーンの100倍以上こってりしていますね。劇画やゲームの場面そのものですね。自宅で観るかといったら──うーん、途中でやめてしまうかもなぁ。けれどそれはそれ、今までに見たことのなかったものを観ました。
クレラー=ミューラー美術館に行く(22年も前のことですが)
ずいぶん前のことですから、現在は分かりませんが……クレラー・ミューラー美術館でゴッホを堪能したあと、もうひとつここには素晴らしいことがありました。ここでは自転車を貸してくれたのです、たしか無料で。それに乗って美術館をとりまく広大な国立公園を体験することができたのです。国立公園を一周──と意気込んで出かけたまでは良かったものの、何しろ広大です。ほかには誰もいない荒涼たる美しい風景の中に入っていくのは、ちょっと日本ではなかなか体験できないことでした。この荒涼さがまた素晴らしく美しいのですね。嵐が丘のヒースの野原というのはこういうものだろうか──ちょっとタルコフスキーの映画のシーンも思い出していました。日本の自転車と違って長身な人むけでブレーキの仕組みも違う(逆方向にこぐとブレーキ)ので戸惑いました。広大な自然の中を走っていると、他に誰一人いない状況なので、このまま行くと帰れなくなるのでは、そう思い始めました。道に迷ったらどうなるだろう、帰りのバスと電車をのがしたら──などと心配になってきました。泣く泣く途中で引き返して返りました。でもこの道は、ずっとずっと先まで行ってみたかった。オランダの自然を満喫できた自転車体験でした。
ゴッホ展(クレラー=ミューラー美術館)を観る
福岡市美術館でゴッホ展(クレラー=ミューラー美術館)を観てきました。今回のゴッホがやってきたのはオランダのクレラー・ミューラー美術館から──そう、ここには行ったことがあります。調べてみて自分でも驚いてしまいました。22年前でした。当時、学会のあと、アムステルダム駅から特急のような電車に30分以上のって、さらにそこからバスだったかタクシーだったかに乗っていく必要のあるところで、行くまでにかなりハードルが高かったのです。行ってみると素晴らしいところで、国立公園の広大な緑の中にありました。なにしろたくさんの作品があるので、今回のように、ひとつひとつの作品をじっくり見たのかどうか──おそらく、見てなかったですね。今回、それをつよく感じたのが「糸杉」の絵でした。あ、こういう作品だったのか。実物であらためて見ると、まったく別物に見えたのです。ちょっと見ただけでは分からない、おそらくポスターなどでは絶対に分からない、あることに気がついて、自分でも驚いてしまいました。これは凄い絵ですね。いろいろと考えさせられました。
「社会学入門」のライヴ経験
先日、「社会学入門」の今学期最後の授業をしました。この一年、すべての授業がオンラインになりました。この経験をじっくりかみしめて来年に活かしていきたいと思います。オンラインになってから、以前にもまして90分の授業の大切さに気づきました。毎回、気張ってちょっと詰め込みすぎたかもしれません。でもオンライン授業が毎回楽しみでした。終わってしまうのがちょっと残念でした。毎週、授業のために日々、準備して、先学期には思いつかなかった新しい視点や論点を盛り込むようにしました。これも真剣に聴いてくれる200人の受講生が、これまた真剣な感想を毎回提出してくれるという「ライヴ」の幸福な相乗効果だったと感謝しています。──ピアノをやっている妻が言っていました。発表会がコロナ禍で中止になると、毎日のピアノの練習のしがいがない、発表会に向けて毎日ピアノを練習してきたのに──と。そのとおりですね。オンライン授業も一方通行だったら、とても「やりがい」など感じられないでしょう。毎回、熱い感想が返ってくることが、次の授業へのエネルギーになりました。今学期の経験を活かして本にしていきたいと思います。
北岡和義さんを悼む
北岡和義さんを悼む──お元気かなと年賀状をだしたところ奥さまから昨年の10月に逝去されたというお知らせをいただきました。思えば27年前にロサンゼルスでお会いしました。家族づれで渡米しUCLAに留学して苦労していた頃です。見るものすべてが初めてづくしのロサンゼルスで、日系コミュニティの方々やKeiro Services、NPOや重要なフィールドなどを教えていただきました。ジャーナリストとしてはJATVというTV局を運営し活発な活動をされていてTVに出演させていただいたこともあります。帰国後は三島の日本大学で教えておられ、清流柿田川を守る会などご案内していただいたこともあります。九州大学の私のゼミにゲスト・ティーチャーに来ていただいたり、伝説的な楢崎弥之助さんと再会するというので天神の焼き鳥屋にご一緒させていただいたり、近年も年に一度は東京でお会いしていたのですが……ご冥福をお祈りいたします。
「風の谷のナウシカ」を社会学する
『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)の電子書籍版
新著『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)の電子書籍版が発売されました。最初の10頁くらいは「ためし読みすることもできます。ぜひどうぞ。従来型の紙の本のほうは月末に発売されます。
これは、介護系NPO団体とともに行った全国の「有償ボランティア」の実態調査をふまえて、あらためて「有償ボランティア」は「ボランティア」として矛盾しているのか、という難しい問題に取り組んでみた本です。ボランティアの「定義」を問い直すことからはじめて、無償と有償の違いを新しい視点から考え直しています。本の後半では、ボランティアから〈仕事〉を作り出すことは可能か、「労働でない仕事」は可能か、という大きなテーマにも挑戦しています。
ケベックで聴いた「ゲッツ/ジルベルト」
先日放送された「村上ラジオ/成人の日スペシャル」を聴いていたらスタン・ゲッツ特集でした。だいぶ昔のことですがモントリオールから一人でレンタカーをしてケベックまで行った時のことです。夕食にはいったケベック・シティの小さな中華料理屋でした。とにかくずっとこの「ゲッツ/ジルベルト」がかかっていたんです。このジルベルトとは、てっきりボーカルのアストラッド・ジルベルトのことだと思っていました。ところがなんと夫のジョアンのことだったんですね。CDのジャケットみてもアストラッド・ジルベルトのことは全然クレジットがありません。これを知って呆然としました。そしてひさしぶりにこのアルバム聴き直しました。いいですね。
新年のご挨拶──驚きの「天井桟敷の人々」
新年あけましておめでとうございます。大晦日の夜、私は、紅白歌合戦の裏番組?として放映された──おそらくほとんど観た人はいないのではないかと思われる番組を観ていました。それは、なんと、放送大学の番組です。放送大学がBS231で放映しているのを観ている人はあまりいないと思いますが、その放送大学の、よりによって大晦日の晩に、私の大学時代からの友人の野崎歓先生が、フランス映画の歴史的名作「天井桟敷の人々」の解説者として登場されたのです。先日、2年ぶりの東京でお会いした時に、紅白歌合戦の裏番組に出演するから、とのことで録画していたのですが、紅白よりもきっと面白いと思って、オンタイムで全部見てしまいました。午後8時30分から深夜0時30分まで、野崎歓さんの2度の解説をはさんでなんと4時間の番組です。マルセル・カルネ監督の1945年の「天井桟敷の人々」──数十年前に一度観たことがありますが、ほとんどあらすじすらも覚えていませんでした。今回、あらためて見直してなかなか凄い映画だと思いました。前回はジャン・ルイ・バローが主役かと漠然と思っていましたが、全然そうでない。主役はギャランス(アルレッティ)さんでした(ガランスとギャランスと中間くらいに聞こえる)。くわえて、野崎歓さんの解説が秀逸!ヒロインのガランスは「フランス」である。そのフランスの理念「自由・平等・博愛」は「自由・平等・恋愛」と読み替えられて、ナチス占領下のフランスでレジスタンス映画として撮影されたのがこの映画だ、という驚きの展開。なるほど、こういう解釈は、そう解説されないと、絶対にそうは読み取れないでしょう。しかし、解説されると、なるほど、すとんと腑に落ちた──そういう驚きとともに新年が明けました。今年も、よろしくお願いいたします。
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照

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- タルコフスキーの『ノスタルジア』のロケ地を訪ねて
- 見田宗介著『現代社会はどこに向かうか-生きるリアリティの崩壊と再生』(弦書房)
- プロフィール
- 小津安二郎 の世界-北鎌倉の旧小津安二郎邸
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- 『フランス文学と愛』著者の野崎歓さんと会いました。
- 「京都人の密かな愉しみ」製作統括の牧野さんがゲスト・スピーカーに
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- 鈴木清順「ピストルオペラ」を観る
- タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』におけるラストシーンの動画
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