From the monthly archives: "8月 2009"

眺めあげる富士山と、眺めおろす富士山

ついほんの前まで、日本人は富士山を空から眺めることはなかった。北斎でも広重でも、富士 山は地平線の上に現れる形象なのである。そしてそれでも富士山は十分に特別な存在であった。ところが近年、飛行機なるもので空から富士山を眺めることが可 能になった。これは日本人と富士山との関係の中でも画期的なこ とかもしれない。毎回、福岡から東京まで飛行する時には、窓にくぎ付けになる。はるか上空1万メートルから眺めおろす富士山。駿河湾のはるか南から見た左 右に雄大に広がる富士山。曇っていると唯一富士山しか見えない時もある。雲海の上にそびえる唯一の存在の富士山。あるいは東京から飛び上がってすぐに息を のむように美しく、しかもその頂に予想よりはるかに小さな火口をいただく富士山。それを真上に近いところから眺めおろす風景。こうした富士山は、たしかに 北斎も広重も見たことのなかった風景だ。いずれ飛行機の航路が変更されるという。羽田の航路も変わるという。われわれの見る絶景の富士山も、いつまで見ら れるか分からない。毎回の富士山を大切に眺めたい。