From the monthly archives: "9月 2020"

「夢の本屋紀行」のシェイクスピア&Co 書店で思い出しました。ウディ・アレンの映画「ミッドナイト・イン・パリ」──この映画にもシェイクスピア&Co 書店が出てきましたね。この映画は1920年代のパリにタイムスリップしたアメリカ人が、その時代の有名人に次々に出会うという一風変わったタイムトラベル映画なのですが、その中で主人公がヘミングウェイと会うレストランが出てきます。このレストラン「ポリドール」──現存する有名レストランなんです。しかも雰囲気がゴージャス。しかし格安の町の定食屋さんなんです。パリ大学近くに滞在していた時には、毎日、このランチを食べに行きました。懐かしいなぁ。味もなかなかでしたよ。


「チャン・ドンゴンの夢の本屋紀行」第3回は韓国の様々な「独立書店」が紹介されていました。書店は(書店に限らず)、お店も大きくなりすぎると、夢を失ってしまう傾向があるようです。夢は巨大な倉庫や収蔵庫やデータベースなどから来るわけではありません。夢は、それを「夢」として見つけ出す、発見できる人から来るのかもしれません。その「夢」を「お店」の形で定義できる人から、もたらされるものなのかもしれません。紹介されている韓国の独立書店は、どれも魅力的ですが、そこにみんなが「夢」を見ることが可能なストーリーをもっているからでしょう。そして夢を、お店の姿として表現しています。どうやら、大きな書店しかなくなると、小さな本屋に夢が移っていくようです。教育も同じで、大学の大教室で語ることから「夢」を汲み取ることは難しいです。パーソナルな中からこそ「夢」が「共振」のようなかたちで伝えられていくということなのでしょうか。


世界夢の本屋紀行 第2回 フランス篇では、パリの本屋などが紹介されていた。まずはパリの「シェイクスピア&Co」。ああ、ここは何度か行ったことがある。ヘミングウェイの「移動祝祭日」で重要な書店として出てくるし、ノートルダム寺院のすぐ近くにあってとてもツーリスティックなところだから。パリ観光した人なら、この書店と、近くのジャズ・バー「Le Caveau de la Huchette」(映画ララランドのロケ場所)には必ず行っていると思う。この書店の上には「タンブルウィード」という作家志望の居候アルバイトが何人か住んでいるらしい。イーサン・ホークもそうだっという。でも今回のメインは、むしろ最後のほうに出てくる小さな書店「クリュニー書店」だったのではないか。ソルボンヌ大学を訪問した時、ここにも行ったことがある。大学のすぐ目の前にある小さな本屋さんだ。今回のTVで初めて知ったのだが、この書店のコンセプトは「本の相続」だという。ソルボンヌ大学の先生などが亡くなった時、膨大な書籍が放出される。それを「購入」というより「相続」するのだという。購入でなく相続─微妙な言い方だが、なんだかじーんときた。そうなんだな、もう本は売り買いする段階ではなく、相続する段階に近づいているのかもしれないな。でも、フランスではトリュフォーの映画「華氏451度」のように本に対する愛着はとても深いものなのだろう。


「韓流スター、チャン・ドンゴンと行く 世界“夢の本屋”紀行」(NHK・BS4K)なんだ、このチャラチャラした番組名は……でも「世界“夢の本屋”紀行」には惹かれる、と期待しないで見はじめたのだが──意外にこれはいいぞ、いやいや、これはすごいぞ、しっかりとした番組だ……おしまいには、もっとこの書店と店主について知りたい、と思うようになった。本はもう古い媒体だ、時代遅れだ、衰退している、若者の本離れ、などという強い先入観がある。ところがどっこい中国にはこんな書店がブーム的に存在しているらしい。そこを韓国の映画スターが訪問するという意外な組み合わせだ。韓国で制作されたドキュメンタリー的な番組らしいが、先鋒書店の創業者へのしっかりとしたインタビューやスタッフの姿なども収録されている。今、日本で、このような本や書店についての「夢いっぱい」番組が作れるだろうか。


今年の大学一年生は大変だ───せっかく大学に入学したのに、オンライン授業ばかりで、楽しいキャンパスライフも、新しい友人づくりもままならない、前代未聞のたいへんな青春だろうなぁと思っていた。ところがFM東京の「村上Radio プレスペシャル」を聴いていたら、村上春樹がさらりと次のようなことを言っていた。僕らの頃も大学に入学した途端に大学はバリケード封鎖されていて授業なんかなかったと。なるほど大学が封鎖されたり、授業も受けられなかったりという経験が、50年前にもあったのだ。あの頃は大学入試じたいが中止になったり、現在よりもずっと大変な状況だったかもしれない。たんに現在だけが「前代未聞」な時代でない。そう分かると、すこし心が落ち着く。さてコロナ・ウィルス危機の時代に青春を過ごす若者の中から、何十年後かに、第2、第3の村上春樹が現れるだろうか。大いに期待したい。