ニッポンがお亡くなりに……
利賀村では、フェスティバルの最中、野外劇場が祝祭的な花火演劇「世界の果てからこんにちは」が上演されます。これは、他のどこでも見られないもので、まさに、利賀村に来た者だけの特権的な経験ですね。野外演劇の真上に、花火がつぎつぎに炸裂するのです。舞台では「海ゆかば」が流れ、大東亜戦争の経験が語られているのです。このときほど、花火と戦火とが近似して見えてくることはありませんね。
さて、舞台では、「女たちがさわいでいる」、何なんだ、「おとう、ニッポンがお亡くなりに……」という有名なセリフが語られることになります。これは、シェイクスピアの「マクベス」で、マクベス夫人が亡くなったという報を聴いたマクベスのセリフのパロディなのですが、毎年毎年、ほんとうだなぁ、ニッポンがお亡くなりになりつつあるなぁ、と観客に深く思い至らせるところでしょう。
今年は、それに加えて、「EUがお亡くなりに……」などというセリフもよぎりました。
夏の利賀村で「SCOTサマーシーズン」が始まりました
今年も、夏の利賀村で「SCOTサマーシーズン」が始まりました。
九州からだと、途方もなく遠い(行きにくい)富山の山中にある「利賀芸術公園」ですが、今年も数千人の観客であふれています。
鈴木忠志とSCOT(Suzuki Company of Toga)は、もう30年以上にわたって過疎地の合掌集落に拠点をかまえて演劇に打ち込んできました。夏のサマーシーズンには世界中から人びとが集まります。いわば過疎地における村おこしの原型のひとつです。
ところで、鈴木忠志さんのトークで驚かされたことがありました。このサマーシーズンが始まった当初、利賀村の村民は1700人、そこに日本や世界から1万人以上がやってきていたそうです。現在も、集客力に変わりはありませんが(むしろ国際化が進んでいて海外からの客がふえている)、村民は500人にまで減少しました。数年内には170人ほどになるということです。たしかに利賀村には民宿も少なくなって、宿泊には苦労します。これを聞くと、日本における都市と地方との格差や「限界集落」問題の深刻さに、あらためて胸ふさがれる思いです。「地方」からみると、人口減少で「ニッポンがお亡くなりに」なりはじめているのです。
ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング』(2016)『This is Japan』(2016)『子どもたちの階級闘争』(2017)
ブレイディみかこさんの講演会で質問者の役割を果たすことになったため、ブレイディみかこさんの著作を何冊か読みました。『ヨーロッパ・コーリング』(2016)『This is Japan』(2016)『子どもたちの階級闘争』(2017)などです。どれも勢いがあってぐぐっと読ませます。すごいですね。どこから、このチカラがやって来るのか、考えてみました。
まず前提として感じるのが、英国の「地べた」、最底辺の世界と、日本の現状とが、おそろしいほど類似しているということです。ブレイディみかこさんが描く英国の最底辺の保育は、日本とかけ離れているどころではない。まさにシンクロしている、ということです。福祉を切り捨て、緊縮財政のもとで社会サービスを切り下げている英国の最底辺部はひどいことになっているけれど、それは、現在の日本とそっくりなのだ、そう感じます。しかしそこから先が違う。英国が、その貧困や問題や最底辺を直視している(とりわけブレイディみかこさんは)のにたいし、日本は、それを直視することができない、いわば、見て見ぬふりをしてきた、いまだにしている、ということです。
たとえば、是枝裕和の映画「誰も知らない」は、まさに、日本の最底辺の児童の貧困、家族の崩壊を取り上げていました。実話にもとづくとされているこの映画では、最底辺の子どもたちの生活を、まさに「誰もしらない」、つまり、誰も知ろうとしない、見ようとしない、誰も助けようとしない、そういう残酷な「現実」を描いていました。
ブレイディみかこさんの著作を読みながら、この映画のことをしきりと思いだしていました。
日本だと、このような現実は、あったとしても、なかったことにする。つまり「誰も知らない」。ところが、ブレイディみかこさんは、まさに、この現実を具体的に描いて、そこにコトバを与えようとする。コトバを与えるということは、残酷な現実を伝えるということ以上のことです。現実を現実として放り投げるのではなく、むしろ、そのような最底辺の、皆が見たくない現実の中にこそ、救いがある、希望がある、という導きを見つけ出す、ということです。そのようなことが果たして可能なのか。可能なのだ、ということを、まさにブレイディみかこさんの著作は、伝えているのだと思います。
ブレイディみかこ氏による福岡ユネスコ講演会(8月19日)
福岡ユネスコ講演会が開催されます。講師は、いま注目のブレイディみかこ氏(保育士、ライター、英国在住)、演題は「英国のいま、そして日本は?」、会場は、エルガーラホール7F・多目的ホール、2017年8月19日(土) 14:00からです。
私も、質問担当として、参加します。詳しくはここ。
灼熱の気温の中での九州大学オープンキャンパス
今年最高気温38度超という中で実施された九州大学オープンキャンパス。満員御礼の盛況でした。文学部の説明会など、3回にわけないと、大教室に入りきれなかったほどです。私は入試委員として、午後の模擬授業の司会進行などを担当しました。教室の外にでると生命の危険すら感じるような、すさまじい暑さ。熱中症なでは起こらなかったでしょうか。この異常高温、毎年のこととも思えません。昔はこんなではなかった。年を追うごとに熱くなってきているように思います。そんな中、たくさんの高校生に来ていただきました。冷房がきいている教室の中も熱くなるような感じでした。
研究室訪問では、学生たちが高校生に応対しています。こちらのほうでも、たくさんの高校生が来てくれました。
市民福祉団体全国協議会の研究会で報告をしました
東京の全労済協会の会議室にて開催された、NPO法人・市民福祉団体全国協議会の「社会政策問題研究会」にて、メンバーの方々を前に「グローバル資本主義の中の「非営利」─その意外な可能性」と題した講演を行いました。主として、ウェブマガジン「シノドス」に発表した2つの論文「グローバル資本主義の中の非営利─バーチャル政府の意外な可能性」と「介護保険のパラドクス─成功なのに失敗?」をベースにした報告です。そして、日本のNPO法人や非営利セクターの課題を、私なりに考えて、ひとつの提案を行ったものです。報告が2時間、質疑応答が2時間という濃密な会議でした。多くの質問をいただき、質疑応答も充実したものになった思います。
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
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