これは2012年、今から9年まえの今頃の箱崎の九州大学キャンパスです。中庭の櫂の樹が、ちょうど今頃、見事な紅葉をむかえたあと落葉がはじまっていました。夜、帰宅する前に、その姿をフラッシュを焚いてとってみました。夜の紅葉も、なかなか美しい──というか美しくも無気味でありました。このキャンパス、いまは、移転とともに破壊されて跡形もありません。
つけくわえると、この楷の樹、中国の孔子廟からやってきたもので、新キャンパスに移植する予定でした。根回ししているうちに、枯死してしまいました。かわいそうなことをしました。がんじがらめにされて、苦しそうでした。そのうえ移植失敗という、やりばのない哀れさでしたね。あの移植の失敗はいったい誰が責任をとったのでしょう。かなり高額の移植費が必要なので、厳選して移植する樹木を選んだはずだったのですが。
抱腹絶倒──村上の世間話
「生きる」と「ゴジラ」と三島由紀夫
『共生社会学』Vol.11が発行されました
「生きる」の社会学(その2)
明日は社会学入門の授業、黒澤明の「生きる」の2回目です。「生きる」の後半の話になりますが、いきなり通夜の席になるのです。主人公は死んでいる。「これは夢幻能ではないか」というのが、明日のテーマになります。黒澤明の映画が能の影響を受けているというのは、多くの人がすでに語っているところです(乱や蜘蛛の巣城などが典型です)。でも、「生きる」にすでに夢幻能の世界が現れている、そう論じてみたいのです。夢幻能として「生きる」を論じると、いったいどういうことになるか。次々に着想が湧いてきて、自分でもわくわくしてきます。スライド50枚になりました。それでも終わりません。「生きる」も3回目まで持ち越しそうです。はたして一年生に理解してもらえるでしょうか。
黒澤明「生きる」の社会学
社会学入門の授業で黒澤明の映画「生きる」を取り上げます。「生きる」──黒澤明の代表作ですが、誰もが名画だというのですが、じつは観たことのある人は少ないのではないでしょうか。ましてや今の若者にしてみたらどうか。ためしに院生に観てもらったら、暗い、怖い、見たくないという感想でした。何しろ癌で余命数ヶ月という老人が、人生をふり返って苦悶する映画です。無気力極まる役所で、死を意識した主人公がひとり奮闘して児童公園を作り上げてそこで死んでいく物語──こういう「あらすじ」を聞いたら、学生たちは観たいとは思わないでしょう。しかもモノクロの70年前の映画です。
でも、こんな表面的な見方ではつまらない。そういう見方とはまったく違った、新しい見方を示したい。この映画の中には「千と千尋の神隠し」にも通じる、現代の若者にも通じるはずの、隠された重大なテーマがある。そう思い立って半年間、いろいろと考えてきました。普通、言われていることとまったく違うことを言いたい、と思って授業を練り上げてきました。さて、結果はどうなるでしょう。2週にわたって「生きる」の社会学を話すつもりです。
「胡同の理髪師」を観ました
福岡のシネラで「胡同の理髪師」(2006)という中国映画を観ました。当時90歳代という現役理髪師が淡々とした人生をしめしてくれる映画。全編、これ老人たちが、死ぬことについて、葬儀や人生の後始末について語りあう映画。でも、暗くなく、からりとしています。いくらか映画のために作ったような場面も出てきますが、90歳の主演の淡々とした態度(ほとんど演技を超えている)に救われます。なんだかいろいろ考えなければならないことなのに、考えてもそのとおりにならないもの──そういう人生のおしまいの機微が現れているように思います。ちらっと樹木希林と山崎努が演じた「モリのいる場所 」を思い出しましたが、全然違っていますね。胡同の古い路地裏が懐かしい。もうなくなってしまったのでしょうか。
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
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