美空ひばり映画を観る
2019年11月は福岡市総合図書館シネラで「美空ひばり没後30周年記念─ひばり主演映画特集」というのをやっていたので、あまり期待せず、見はじめた。ところが、これが素晴らしい。歌手としての美空ひばりしか知らなかったが、すごい映画俳優なのである。主演第一作の「悲しき口笛」(1949)からしてすでに傑作である。その後、鞍馬天狗、遠山の金さんものなど、どれもいい。続けて10本以上も観てしまった。中でも文芸作品「伊豆の踊子」(1954)と「たけくらべ」(1955)が特に良かった。特徴を一言でいうのは難しいが「若いのに貫禄がある」「無理な演技をしていない」「自分の重心に近いところで無理せずに踊っている」。はじめから全力疾走という感じではない。ゆったりとした達人の気配がある(褒めすぎか)。何しろ12歳で映画主演と主題歌。すでにして堂々たる貫禄なのである。威張った貫禄ではなく、余裕の貫禄。しかも役どころも「主演だが主役ではない」、そんな控えめな渋くてすがすがしい役回りが良かった。
塩飽本島と咸臨丸、そして両墓制
塩飽本島はディープでした。まず、この島の出身者たちが「咸臨丸」の操船を担って、はるばるアメリカまで行ったとは知りませんでした。島のいたるところに「咸臨丸乗組員の○○の生家」というネームプレートがあるのです。おお、すごいな。歴史を切り開いた船員たちの島だったんだな。さらに、自転車で島を半周すると「瀬戸芸」(瀬戸内芸術祭)の制作物がいろいろあります。中でも突出していたのは、島の「埋め墓」に隣接して建てられていた塔。これは、なんというか、すごい眺めです。解説を見ると、これは文化人類学的にも珍しい「両墓制」の姿なのです。死者を葬る「埋め墓」とお参りする「詣で墓」との「両墓制」の姿なのです。これは深い。
「銀河鉄道」と「同行二人」
弘法大師空海の誕生の地と言われるのが、四国八十八箇所霊場の第七十五番「善通寺」です。今回は、善通寺をふくめ、八十八箇所中、3カ所のお寺に詣でさせていただきました。
さて、この善通寺で感あり。丸亀での講演内容と共振するかのように、お遍路さんとは「銀河鉄道」ではないか、とひらめいたのです。お遍路さんは「同行二人」だと言います。巡礼者がいつも弘法大師と一緒に巡礼しているという意味だそうです。これは、まさに「銀河鉄道の夜」でジョバンニがカムパネルラと一緒に旅しながら天の声を聴こうとする姿、「千と千尋の神隠し」で千尋とカオナシが、じっとだまって胸のおくから呼んでいる声にじっと耳をすませている姿……その原型ではないでしょうか。
富士講、熊野詣、四国八十八箇所霊場のお遍路さん等々・・・みんな「銀河鉄道」へとつながる深い共通性があるのかもしれませんね。
うどん県香川の「釜玉うどん」
さて三日目、丸亀うどんツアーの最後は「岡じま」の朝うどん。今回は「釜玉うどん」です。これは「釜揚げ」のうどんに「生卵」をからめて「釜玉しょうゆ」をかけていただくうどんです。一度きいただけでは「醤油うどん」や「釜揚げうどん」との違いが判別できません。でも違うのです。うどん県ならではの、ガラパゴス的に特殊進化したうどんです。これがまた、うまい。釜揚げうどんに卵がからんで独特のコーティングになり、そこに「釜玉しょうゆ」というこれまた他では見たことも聞いたこともない、ガラパゴス的な進化を極めた醤油があって、「釜玉うどんには、この醤油でないといけない」という法則が成り立っているのです。それが「セルフ」という自分で味付けする世界で行われています。これは奥が深い。先達がいてお手本を見せてくれないと、その良さが分からないディープな世界です。香川のうどん店は、ひとつひとつが、ガラパゴス諸島の島々のように、独自に進化しているんですね。
うどん県香川の「がもううどん」
行ってきました、うどん県香川の丸亀市。市役所のうどん王、年間400回うどんを食べるというMさんとともに、強力お薦めのうどん店を食べ歩きました。まずは「がもううどん」。この店、1990年秋に村上春樹が取材で訪れています。それによると「純粋にロケーションから言うと、僕はこの店がだんぜん気に入っている。このお店は文字通り田圃の真ん中にある。店の外におかれた縁台に腰掛けてうどんを食べると、目の前に稲田がざあっと広がっている。」とあります。さて、30年後の「がもううどん」。店の前は平日の昼ですが行列。かつての「ざあっとひろがっている」田圃は、すべてこの店のための駐車場になっていました。すごい。大発展したんだ。うどんは、もちろん、おいしかった。とくにだし汁は最高で、ずぶずぶごっくんと飲み干して、おかわりしたくなりました。
*村上春樹のエッセイの続きは「季節は秋だから、稲の穂が風にさわさわと揺れている。すぐ前には小さな川が流れている。空はあくまで高く、鳥の声が聞こえる。かけが80円、大は140円。おかずとしてコロッケと卵がテーブルの上に置いてある」とあります。「小さな川」というのはため池からひいた用水のことだと思います。またおかずも、コロッケと卵というようなシンプルなものではなく、多彩な天ぷら類が並ぶようになっています。時の流れを感じますね。
丸亀市で講演をします
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
カウンタ
- 392327総訪問者数:
- 20今日の訪問者数:
- 27昨日の訪問者数:
最近の記事
- 映画「二十四の瞳」(木下恵介監督,1954)を観る
- 「君たちはどう生きるか」──宮崎駿さんたちジブリのスタッフが制作途中に訪れた温泉
- 「無法松の一生」を観る
- 大濠雲海
- 博多で講演と対談をしました
- 新著『福祉社会学の思考』が出版されました
- Chat GPTに論争をふっかける
- 遣唐使や遣隋使の出航した荒津の崎
- 福岡の桜、一挙に満開
- 福岡の桜開花(3/27)
- 安立清史の新著『福祉社会学の思考』(弦書房)が出版されます
- 福岡城跡の仮設・天守台
- 中島岳志さんと國分功一郎さんの福岡ユネスコ文化セミナー
- 福岡・桜祭り
- 福岡ユネスコ文化セミナーの開催
- 福岡市でACAP(Active Aging Consortium in Asia Pacific)セミナー開催
- バルセロナ郊外─モンセラート僧院とパラドール・カルドナの一夜
- 新著『福祉社会学の思考』(弦書房)の予告
- 「かまきん(鎌倉文華館)」訪問
- 認定NPO法人・市民協の理事会
- チャン・ドンゴンと行く 世界「夢の本屋」紀行
- ボストン・シンフォニーの小澤征璽
- イタリア・ネオレアリズモ映画を観る──無防備都市と自転車泥棒
- 加藤周一、座頭市を語る
- 新年のご挨拶──「超高齢社会研究所」代表・安立清史
- ジブリ・加藤周一・座頭市
- 立命館大学・加藤周一文庫のこと
- 加藤周一の小さな机
- ジブリと加藤周一と「日本その心とかたち」
- 私の原点──加藤周一その2
- 私の原点──加藤周一
- 『ジブリと宮崎駿の2399日』驚きのエピソード
- 名古屋のジブリパークに行きました
- 愛知県社会福祉会館(名古屋市)で講演をしました
- 「住民参加型在宅福祉サービス団体研修会」(名古屋市)で講演します
- 沢木耕太郎の新著『夢ノ町本通り』のこと
- マンガ版「君たちはどう生きるか」
- 『熱風』の「君たちはどう生きるか」特集
- 「君たちはどう生きるか」という問い
- 「君たちはどう生きるか」もうすぐフランスでも公開だそうです
- 戦争の時代に宮崎アニメを読む
- プラネタリウムで「銀河鉄道の夜」体験
- 12月に愛知県名古屋市でセミナー講師をつとめます
- 中村学園大学で「社会福祉とボランティア」の授業をします
- 「記者ありき─六鼓・菊竹淳」を観ました
- 西日本新聞で『福祉の起原』が紹介されました
- 社会学、出会い直しの会
- 『福祉社会学研究』に私の著書『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』の書評が掲載
- 『共生社会学』Vol.12──退任記念号
- 市民協ミーティング2023 in 佐賀
- 8月、市民協が佐賀・熊本・鹿児島でフォーラム・キャラバン
- 「鈴木敏夫とジブリ展」に行きました
- 『福祉社会学研究』№20 での書評
- 京都の同志社大学で「福祉社会学会」設立20周年シンポジウム
- 大阪ボランティア協会の早瀬昇さんが『ボランティアと有償ボランティア』を書評して下さいました
- 『放送レポート』最新号で『福祉の起原』が紹介されています
- ブックトーク後のサイン会
- 新著『福祉の起原』のブックトーク
- 不思議なシンクロ──「鈴木敏夫とジブリ展」がスタート
- 『福祉の起原』発売記念 安立清史×村瀬孝生 トークセッション
- 『社会学評論』最新号に『ボランティアと有償ボランティア』の書評が掲載
- シンポジウム「見田宗介/真木悠介を継承する」
- UCLAのスティーブン・ウォーレス教授の逝去
- 超高齢社会に社会学からの解
- 九州大学からの海外発信
- 九州大学での最終講義を行いました(2023年2月6日)
- 新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。
- 研究の国際発信──『超高齢社会の乗り越え方』
- 最終講義日程(九州大学広報室)
- 新著『福祉の起原』(弦書房)のカバーが決まりました
- 新年のご挨拶
- 見田宗介先生を偲ぶ会
- 戦争の乗り越えは可能か(西日本新聞・随筆喫茶)
- 「戦争の乗り越えは可能か」─「千と千尋の神隠し」から考える
- 佐藤忠男さんを偲んで(シネラ)
- 大阪・中之島の「大阪図書館」
- 北九州市立美術館の「祈り・藤原新也」
- 『「千と千尋の神隠し」から考えるこれからの世界』─香川県丸亀市でお話しをします
- 「コロナ禍のもとでのボランティアやNPO法人の活動の実態と課題──オンラインによる社会調査実習の試み」
- 「森田かずよ 世界に一つだけ、私の身体」を観ました
- 「伊豆の踊子」(1974)と「四季・奈津子」(1980)
- 名画座の打率
- 暗い眼をした女優─ミシェール・モルガン
- 『「千と千尋の神隠し」から考えるこれからの世界』
- 中井久夫さん追悼
- 見田宗介先生追悼─『社会学評論』№289編集後記
- 「ふたりのウルトラマン」とは何か
- 「ゴルバチョフ:老政治家の遺言」を観ました
- オンラインでの社会調査実習
- 村上春樹ライブラリーのジャズ
- 西日本社会学会年報に私の書評が掲載されました
- 西日本社会学会年報2022に、拙著『超高齢社会の乗り越え方』の書評が掲載されました
- 見田宗介先生、最後の年賀状
- 社会学者の見田宗介先生が亡くなられました
- NHK/IPC 国際共同制作「映像記録 東京2020パラリンピック」を見ました
- 「no art, no life」と「ツナガル・アートフェスティバル福岡」
- 九州大学文学部の卒業式
- 感慨も湧かないのか、かえって感慨深いのか──いよいよ卒業式です
- no art, no life 〜表現者たちの幻想曲
- 東京大学社会学の佐藤健二さんの最終講義
アーカイブ
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2009年8月
- 2008年10月
- 2008年8月
- 2006年8月
- 2005年8月
- 2004年8月
Count per Day
- 471955総閲覧数:
- 28今日の閲覧数:
- 88昨日の閲覧数:
- まさかのどしゃぶりの雨の中の柳川川下り
- タルコフスキーの『ノスタルジア』のロケ地を訪ねて
- 小林秀雄の「山の上の家」
- 「君たちはどう生きるか」──宮崎駿さんたちジブリのスタッフが制作途中に訪れた温泉
- 松茸、有マス
- タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』におけるラストシーンの動画
- プロフィール
- 村上春樹の「風の歌を聴け」のジェイズ・バー(映画ロケ地)
- 吉祥寺、井の頭公園、噴水、大島弓子、ゾウの「はな子」さん
- 映画「二十四の瞳」(木下恵介監督,1954)を観る
- 「無法松の一生」を観る
- 建築における人間工学はどうなっているのか
- かふか2
- 京都の漬物
- 宮澤賢治の「圖書館幻想」(ダルゲとダルケ)
- 「讃岐・超ディープうどん紀行」(村上春樹)を追いかける
- 映画「ローザ・ルクセンブルク」を観ました
- 夢の本屋紀行─中国・南京の先鋒書店
- 「なめとこ山の熊」鉛温泉・藤三旅館
- ロンドンでカール・マルクスが住んだ家
カテゴリー
- トップ (1,643)