人口減少社会
3月には様々なイベントが立て続きますね。3月16日は福岡ユネスコ協会のシンポジウム「人口減少社会」でした。「里山資本主義」や「デフレの正体」で有名な藻谷浩介さんを主講演者として、ほかに慶応大の小林慶一郎さん、京都大の諸富徹さんという豪華なラインナップ。藻谷さん独特のクイズ形式の講演、たたみかけるように繰り出す様々な挑発と警句、さすがに年間500回講演するという(いったいどういう計算になるのだろう)ハイテンションな藻谷さん節の連発。すごいものですね。数年前に熊本で聞いたときより、一段と講演芸に磨きがかかっているようです。アベノミクスへの対抗心からなのか、以前よりアグレッシブな講演になっていました。また小林さんの「フューチャーデザイン」のための「仮装未来人」というアイデアにも関心を惹きつけられました。これ、ロールズの「無知のヴェール」の応用とも考えられますね。こういう内容の濃いシンポジウムこそ、大学生や留学生が聴くべきだと思ったのですが……。
最終講義のスタイル
「最後」とか「最終」というの何か人を切迫させるものがあります。「最後の晩餐」のあとに「最後の審判」がある、というようなキリスト教的世界観だけでなく、やはり「終わり」が近づいてくると、人は何かせき立てられるものがあるようです。あたかも夏休みの終わりに急いで宿題に取り組むように、また試験時間の終了間際にあせって解答を書き込むように。
大学では1月から3月にかけて退職教員の「最終講義」というものが行われます(後述するように必ずしも退職教員すべてが行うわけではありませんが)。私も様々な人の「最終講義」に出席してきました。
大きく分けて二つの種類の「最終講義」があるように思います。第1は「最終講義はしない」というスタイルです。人生はまだ続くのだし、「最終講義」をしてしまうと、お葬式をしてしまった後に生きながらえているようで、どうにも収まりがわるい、だから一切のセレモニーをしない、というスタイルです。「最終講義」の後には「レセプション」ないし懇親会などのパーティがあって、わざわざやって来てくれると恐縮するし、閑散だと寂しすぎるし、いずれにせよ気分的に大きな負担になる、ということもあるでしょう。第2は「集大成の走馬灯」スタイルです。これまでの学問人生を走馬灯のようにふり返りながら集大成的なまとめをするスタイルです。一番穏当で一番最終講義らしいスタイルです。多くの聴衆(現学生、元学生、同僚や関係者)が来てくれるとたいへん幸福でしょう。しかしこういうハッピーなスタイルが可能になるのには、ある条件が必要なように思います。私が見るところ大学とつながった「業界」のようなものがあり、そこにしっかりと支えられている先生でないと、なかなか、こうはならないのです。例えば医学部や教育学部などがそれにあたります。教え子が、大学に引き続いてその業界で医師や教員になっていたりすると、多くの参加者があって賑やかで華やいだ最終講義とパーティになりやすいのです。
さて、つい先日、大学時代の友人が早期退職するので「最終講義」をしました。たくさんの人たちがかけつけ、華やいだ雰囲気の中での「最終講義」でした。彼は有名教授でありましたが、必ずしも「業界」の人ではなかったと思います。きっと彼の人徳だったのでしょう。その意味でも理想的な「最終講義」でした。
定年退職送別会に思う
送別会のシーズンだ。送別会の寂しさとは何だろう。やがて自分も送別される側に回るからだろうか。送別とは一種の「楽園追放」かもしれない。ある年齢に達すると、一律に楽園追放にあう、その平等さと残酷さが、ないまぜになった定年制度。アメリカでは定年制度が廃止されたことを知ったとき、軽いショックを受けた。定年制度は突きつめると「年齢を理由として退職を強制する制度」だから人種差別、性差別と同じ年齢差別だというのだ。この論理は必ずしも私たちを全面的に説得するわけではないが、アメリカらしい論理だと思う。日本もいつか、こうなる日が来るだろうか。少なくとも、そうかんたんにはいくまい。桜はぱっと咲いて、ぱっと散るところが日本らしいという国だ。だらだらと職場に居続けることは、日本の美学が許さないだろう。みんないっしょに咲いて、みんな同じように散っていく。美しくもあり、寂しくもあり、それが日本的な悟りにも似た「諦念」なのだろうか。
インフォメーション
安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
カウンタ
- 401616総訪問者数:
- 23今日の訪問者数:
- 27昨日の訪問者数:
最近の記事
- 山岡義典さんから『福祉社会学の思考』のご感想をいただきました
- 唐津小旅行
- 梅雨明けの虹でしょうか
- 福岡の「第二宅老所よりあい」
- 『福祉社会学の思考』(弦書房)の書評
- 「CareTEX福岡‘24」で講演をしました
- 共同通信 の『福祉社会学の思考』書評
- 中日新聞にコメントが掲載されました(東京新聞、北陸中日新聞にも)
- ジャカランダの花
- 図書館奇譚
- 【CareTEX福岡’24】の専門セミナーに登壇します
- 『ボランティアと有償ボランティア』が入試問題に出題されました
- 新著『福祉社会学の思考』(弦書房)が新聞で書評されました
- 長湯温泉(その2)
- ラムネ温泉(大分県竹田市・長湯温泉)
- CareTEX福岡’24 (マリンメッセ福岡)専門セミナーで講演します
- ジブリ温泉(その2)岩手県花巻温泉
- 映画「二十四の瞳」(木下恵介監督,1954)を観る
- ジブリ温泉(その1)──宮崎駿さんたちジブリのスタッフが制作途中に訪れた温泉
- 「無法松の一生」を観る
- 大濠雲海
- 博多で講演と対談をしました
- 新著『福祉社会学の思考』が出版されました
- Chat GPTに論争をふっかける
- 遣唐使や遣隋使の出航した荒津の崎
- 福岡の桜、一挙に満開
- 福岡の桜開花(3/27)
- 安立清史の新著『福祉社会学の思考』(弦書房)が出版されます
- 福岡城跡の仮設・天守台
- 中島岳志さんと國分功一郎さんの福岡ユネスコ文化セミナー
- 福岡・桜祭り
- 福岡ユネスコ文化セミナーの開催
- 福岡市でACAP(Active Aging Consortium in Asia Pacific)セミナー開催
- バルセロナ郊外─モンセラート僧院とパラドール・カルドナの一夜
- 新著『福祉社会学の思考』(弦書房)の予告
- 「かまきん(鎌倉文華館)」訪問
- 認定NPO法人・市民協の理事会
- チャン・ドンゴンと行く 世界「夢の本屋」紀行
- ボストン・シンフォニーの小澤征璽
- イタリア・ネオレアリズモ映画を観る──無防備都市と自転車泥棒
- 加藤周一、座頭市を語る
- 新年のご挨拶──「超高齢社会研究所」代表・安立清史
- ジブリ・加藤周一・座頭市
- 立命館大学・加藤周一文庫のこと
- 加藤周一の小さな机
- ジブリと加藤周一と「日本その心とかたち」
- 私の原点──加藤周一その2
- 私の原点──加藤周一
- 『ジブリと宮崎駿の2399日』驚きのエピソード
- 名古屋のジブリパークに行きました
- 愛知県社会福祉会館(名古屋市)で講演をしました
- 「住民参加型在宅福祉サービス団体研修会」(名古屋市)で講演します
- 沢木耕太郎の新著『夢ノ町本通り』のこと
- マンガ版「君たちはどう生きるか」
- 『熱風』の「君たちはどう生きるか」特集
- 「君たちはどう生きるか」という問い
- 「君たちはどう生きるか」もうすぐフランスでも公開だそうです
- 戦争の時代に宮崎アニメを読む
- プラネタリウムで「銀河鉄道の夜」体験
- 12月に愛知県名古屋市でセミナー講師をつとめます
- 中村学園大学で「社会福祉とボランティア」の授業をします
- 「記者ありき─六鼓・菊竹淳」を観ました
- 西日本新聞で『福祉の起原』が紹介されました
- 社会学、出会い直しの会
- 『福祉社会学研究』に私の著書『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』の書評が掲載
- 『共生社会学』Vol.12──退任記念号
- 市民協ミーティング2023 in 佐賀
- 8月、市民協が佐賀・熊本・鹿児島でフォーラム・キャラバン
- 「鈴木敏夫とジブリ展」に行きました
- 『福祉社会学研究』№20 での書評
- 京都の同志社大学で「福祉社会学会」設立20周年シンポジウム
- 大阪ボランティア協会の早瀬昇さんが『ボランティアと有償ボランティア』を書評して下さいました
- 『放送レポート』最新号で『福祉の起原』が紹介されています
- ブックトーク後のサイン会
- 新著『福祉の起原』のブックトーク
- 不思議なシンクロ──「鈴木敏夫とジブリ展」がスタート
- 『福祉の起原』発売記念 安立清史×村瀬孝生 トークセッション
- 『社会学評論』最新号に『ボランティアと有償ボランティア』の書評が掲載
- シンポジウム「見田宗介/真木悠介を継承する」
- UCLAのスティーブン・ウォーレス教授の逝去
- 超高齢社会に社会学からの解
- 九州大学からの海外発信
- 九州大学での最終講義を行いました(2023年2月6日)
- 新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。
- 研究の国際発信──『超高齢社会の乗り越え方』
- 最終講義日程(九州大学広報室)
- 新著『福祉の起原』(弦書房)のカバーが決まりました
- 新年のご挨拶
- 見田宗介先生を偲ぶ会
- 戦争の乗り越えは可能か(西日本新聞・随筆喫茶)
- 「戦争の乗り越えは可能か」─「千と千尋の神隠し」から考える
- 佐藤忠男さんを偲んで(シネラ)
- 大阪・中之島の「大阪図書館」
- 北九州市立美術館の「祈り・藤原新也」
- 『「千と千尋の神隠し」から考えるこれからの世界』─香川県丸亀市でお話しをします
- 「コロナ禍のもとでのボランティアやNPO法人の活動の実態と課題──オンラインによる社会調査実習の試み」
- 「森田かずよ 世界に一つだけ、私の身体」を観ました
- 「伊豆の踊子」(1974)と「四季・奈津子」(1980)
- 名画座の打率
- 暗い眼をした女優─ミシェール・モルガン
アーカイブ
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2009年8月
- 2008年10月
- 2008年8月
- 2006年8月
- 2005年8月
- 2004年8月
Count per Day
- 490630総閲覧数:
- 23今日の閲覧数:
- 39昨日の閲覧数:
- タルコフスキーの『ノスタルジア』のロケ地を訪ねて
- あはがり と「新日本風土記」
- 吉祥寺、井の頭公園、噴水、大島弓子、ゾウの「はな子」さん
- 村上春樹の「風の歌を聴け」のジェイズ・バー(映画ロケ地)
- タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』におけるラストシーンの動画
- 教育活動
- 小津安二郎の世界-「東京物語」の尾道を歩く
- 映画「無能の人」(竹中直人 1991)を観る
- 石井聰亙「水の中の八月」を観る
- 親指シフト・キーボードとThinkPad、MacBook
- 山岡義典さんから『福祉社会学の思考』のご感想をいただきました
- イタリア・ボローニャの野外シネマ
- NHK・BS「新日本風土記・生駒山」を見ました
- 元西日本新聞の名物記者・川上三太郎さんが引退、『三太郎 博多 ある記』を出版されます
- 長崎・浦上の山里小学校と黒澤明の「八月の狂詩曲」
- 黒澤明の「醜聞(スキャンダル)」(1950)を観る
- 戦後の闇市跡か
- どっどどどどうど、どどうど、どう。(宮澤賢治の「風の又三郎」の映画ロケ地)
- パリ大学ナンテール校─「パリ五月革命」の地を訪ねて
- カフカの図書館
カテゴリー
- トップ (1,660)