From the monthly archives: "10月 2021"

香川県丸亀市で講演しました。今回の講演はじつに2年ぶりの対面での講演でした。この間、大学の授業もすべてオンラインだったので、じつに久しぶりでした。やっぱりリアルな対面は良いですね。皆さん熱心に聴いて下さったので、楽しくお話しできました。90分の話のあと、さらに熱い質疑応答がありました。何よりいちばん嬉しかったのは、会場が30名に限定されていたのに、持参した最近の著書10冊が完売したことでした。こういうことは、めったにないことです。何よりの評価をいただいた思いでした。皆さん、ありがとうございました。ぜひ、来年もうかがいたいです。


大島弓子さんが文化功労者、突然の報にびっくりしました。何十年も前、私が大学生となって駒場の文学サークルに入ると、少女漫画ずきの男子が何人かいました。私はこういう人たちがいるのが大学かと驚き、そして読んでみました。中でももっとも強く何かを感じさせてくれたのが大島弓子の作品でした。少年漫画とは明らかに違う精神性のようなものがありました。そして同時に少女漫画という狭いジャンルを突き抜けていく疾走力がありました。死の影のある生という特徴的な主題は、年譜をみると「誕生!」あたりからではないでしょうか。堀辰雄みたいな世界から始まり、みるみる高みに登っていって1975年あたりから独自の世界観を確立していったようです。世評が高いのは1978年の「綿の国星」でしょうか。私はむしろ1980年代以降の作品に惹かれます。特徴的なのは漆黒の死の世界の中にたった一人放り出されて、そこで絶望するのでなく、意想外の発想へと飛躍する場面です。いま、たくさんは思い出せませんが、たとえば「秋日子かく語りき」における「ベンジャミン」です。これは凄い、本当に凄い。読まれていない方は何のことか分からないと思いますが、死にゆく人が、観葉植物ベンジャミンに託して、家族の思いを探ろうとするのです。この突出した発想とその説得力、そして悲しみの中からあふれてくる喜び。これこそ、大島弓子の真骨頂ではないかと思います。


200人超受講の1年生向け「社会学入門」も一ヶ月がすぎました。4回の講義のうち「千と千尋の神隠しの社会学」で3回やりました。が、まだ話したりません。この講義、もう5年くらいやっているのですが、毎年、新しい発見があって、つぎつぎ膨らんでいくのです。今回は、選挙中とあって「選挙と投票」について考えさせるシーンが「千と千尋の神隠し」の中に埋め込まれている、という話をしました。なるほどびっくりそのとおり、という感想と、牽強付会だ、という意見に分かれましたが、考えるヒントになればと思います。講義では、千尋は君たちだ、いや私たちだ、千尋の直面した問題は、私たちの問題だ、という趣旨で話してきたので、いろいろと考えてもらえる機会になったのではないかと思います。



香川うどん県丸亀市に講演にいってきました。この機会に村上春樹のエッセイ「讃岐・超ディープうどん紀行」に載っているお店にご案内いただきました。ちょっと地元の人でないと行き着けないような場所にあるうどん店です。2年前には「がもううどん」をご案内いただき、今回は「中村うどん」でした。ここはまずロケーションが素晴らしい。見事な讃岐富士のふもとにあって、かつては田圃や畑のなかにぽつんとあったようです。いまや超人気店になって、かつての畑は駐車場になり、土曜のお昼ということもあって行列です。すごいなぁ。しかも安い。みんな、このうどんを「呑む」ようにあっというまに食していきます。これまた壮観ですね。村上春樹が訪問した20数年前は、今から数えると先々代ということになるらしいです。いまやあれから3代目にあたる若い主人がめんを打っています。香川のうどん文化の奥深さを今回も深く実感いたしました。


今週末、香川県丸亀市に講演にうかがうのですが、2年ぶり2度目です。毎回、心躍るのが「うどんツアー」です。思えば、1998年出版の村上春樹のエッセイ集の中にある「讃岐・超ディープうどん紀行」を読んで以来の念願ですから、もう23年ごしの「うどん」とのご対面になります。前回うかがった時には「がもううどん」をご案内いただきました。今回、いよいよ「中村うどん」にご案内いただけるとのことで、いやがおうにも期待が高まってきました。なにしろ村上春樹が「ディープ中の最ディープのうどん屋」と評し、うどん紀行の最後にふたたび「しかし中村うどんは凄かったな」と書いてるくらいですから。23年の時をへて、はたして、この村上春樹の評は生きているのか、これもまた、興味津々なところです。


今年3月に上梓した拙著『21世紀の《想像の共同体》──ボランティアの原理 非営利の可能性』への書評が、日本社会学会の機関誌・社会学評論に掲載されました。学会誌でこんなに早く書評されるのは、あまりないことなので、びっくりしました。


日本に来ている留学生には、日本を理解する上で、NHKの「新日本風土記」と「美の壺」というTV番組を推薦したいと思います。日本の地域や庶民を地道に丹念に取材して、ほろりとさせる人情味あふれるのが「新日本風土記」。そして草刈正雄のおとぼけ味につつんで日本文化の精髄を紹介するのが「美の壺」。両方とも端倪すべからざる番組で、ふつうの私たちが知らない世界がここに広がっています。最近でいうと「新日本風土記」の「東京の地下」というのは出色でした。地下のレタス工場、地下8階の国会図書館、歌舞伎町の地下ライブハウス……極めつけは、かつて新宿地下広場で「フォークゲリラの女神」と言われていた人が50年ぶりに登場して、変わらぬ主張を堂々と。これには、どぎもをぬかれました。すばらしい。(NHKの人にきくと、新日本風土記は、ディレクターが初任地で数年かけて地道に取材した成果の、いわば卒業論文のような性格もあるらしいですよ。東京の地下の場合は、ちょっと違うかもしれませんが)


新学期3日目、きょうは全学1年生にむけた「社会学入門」のオンライン授業です(受講者200名に限定)。いきなりオンライン設定でトラブル。TAとともに大汗をかきました。オンライン授業はこれだからスリリングですよね。パワーポイント30枚、考え抜いた構成ですが、夏目漱石の「吾輩は猫である」とジブリの「千と千尋の神隠し」が共通する問題提起をしている、というところから入りました。ついで映画「アラビアのロレンス」の話。この映画の前半のクライマックス「ガシムの救助」のシーンを画像をつけて解説しました。これはコロナ禍で私たちが無意識に行っていることへの批判と受け止めるべき重要なシーンなのです。


秋学期二日目、4月に社会学に進学してきた16名の学生たちと初対面(というかオンラインなのですが)。授業の概要を説明するのに30分。その後、ひとりひとりオンラインで自己紹介してもらいました。合間に質問したりコメントしたりしていたらわずか8人で1時間たってしまい、全員おわらずタイムアップ。来週もまた自己紹介の続きをしてもらうことになりました。でも、自己紹介、面白いし、大切ですよね。こちらもついつい関心を惹かれていろいろ質問してしまいます。これは若い人たちの考えていることを知る良い機会。この自己紹介合戦、毎年の楽しみのひとつです。


秋学期が始まりました。つい先週までは緊急事態宣言発令中で、公共施設は図書館もプールも駐車場まで閉鎖だったのに、いきなり大きく流れがかわって戸惑います。大学からも「対面授業かハイブリッドを考えよ」などといってくるのでますます戸惑ってしまいますね。学生からも直接問い合わせがあります。でも、理由なく沈静化しているのは、いつまた理由なく燃え上がるか分からないですから、これで治まるのだろうか。もうしばらく状況をみたいですね。

(写真は九州大学伊都キャンパスちかくの二見浦)


社会学の大先輩の橋爪大三郎さん。『中国 vs アメリカ』といういささか物騒な本を出されました。読んでみると、香港で強引だった中国、つづいて台湾をめぐって中国とアメリカの衝突が近いという予想です。習近平政権は戦前の日本のようだと言うのです。中国語の世界観の中だと戦前の日本のように暴走して押しとどめるのは困難だと予測しています。途中、台湾をめぐってアメリカと中国が戦うとなると、どのようなシナリオになるか、事細かにシミュレーションしてあって、ここまで状況は切迫しているのか、と驚きます。いささか軍事オタク風でもありますね。でも読んでみるとこれがまっとうな論旨。あえて言えば小室直樹直伝の論の進め方ですね。けっして「トンデモ本」ではありません。数年前の『日本逆植民地化計画』も驚くような論旨で理解できるまで時間がかかりましたが、今回もそう。なんだか令和の預言者のようになってきた橋爪さん。でも考えさせられます。