映画「アラビアのロレンス」の印象的なシーン──ロレンスたちはトルコ軍の基地のあるアカバ襲撃のため、部隊をひきいて過酷な砂漠を大縦断している。ふと気づくと一人の男(ガシム)がラクダから落馬して行方不明になっている。ロレンスは探しに戻ろうという。ベドウィンの男たちは、それは自殺行為だと反対する。ロレンスはひとりで砂漠に探しに戻る。そして瀕死のガシムを救い出す。その結果を見てベドウィンたちはロレンスに対する見方を一変させる。彼を「救い主」のように見るようになり、部隊の団結が強まっていく。ここは聖書の一節「迷える子羊」をほうふつとさせるシーンだ。99匹の羊をさしおいて1匹の迷える子羊を探しだす──これはイエスの宗教行為のメタファーになっている。このエピソードを、コロナ危機における救命医療の「トリアージ」と対比させて、ぜひ考えてもらいたくて、先週の授業で取り上げた。賛否両論、侃々諤々。でも、それこそ社会だし社会学なんじゃないか。全員一致でガシムを見捨てる社会よりは。
かつて「世界わが心の旅」という番組がありました
かつてNHKのBSに「世界わが心の旅」という番組がありました。ずいぶん昔の番組ですが、YouTubeを見るといくつか発見できます。李香蘭(山口淑子)が上海で李香蘭になるきっかけを作った「龍馬ちゃん」に再会するのは、なかなか感動的でした。山口淑子さんは、戦争宣伝に加担したことを自己批判しながらも、真正面からかつて李香蘭であったことを語っていましたね。米原万里がプラハのロシア語学校の同級生に再会する話もよかった。かつての各国の共産党幹部の娘さんたちが、プラハでロシア語教育を受けていたんですね。その後日談がなかなかに意味深い。また宮崎駿がサン=テグジュペリの航空路 をたどってフランスからモロッコのキャップ・ジュビーまで飛行する話もすごかったですね。双発機に乗り込んで地上100メートルくらいを飛行するのはジブリ映画の定番ですが、ここに原イメージがあったのですね。また、つい先日亡くなったトランペッターの近藤等則がイスラエルのキブツを訪ねる話などなど、キブツというのは言葉でしかしらなかったけれど、こういうものだったのか。どれも画質は悪いが内容は素晴らしい。かつてはこんなにも深い番組が作られていたのだ。
(この「紅の豚」はモロッコまで双発機で飛行していく宮崎駿そのものですね)
オンライン授業
今週から秋学期が始まりました。私の場合、すべてオンライン授業です。昨日から「社会学入門」(全学の一年生向けの基幹教育科目)が始まりました。全学部から200名の学生が聴講しています。もっと受講希望はあったのですが教務課のほうが抽選で200名にしてくれました。これは、いったい、どういう人たちが、どう聴いているのだろう。ひとりも顔がみえません。もちろん反応もありません。シーンとしたノートパソコンの画面に向かって、パワーポイントを動かしながら、ただひたすら語りかけるのですが、これはひどく疲れます。反応がないことが、これほど人を消耗させるものだということが初めて実感できました。どっと疲れました。
……その後、感想文が続々。うれしい悲鳴。197名から感想文が届いています。しかも実に力の入った感想文が多くて、これは手ごたえありましたね。
『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』
もう6,7年になるのではないだろうか。ノーベル賞の季節が近づくと、九州の某新聞社から「今年も村上春樹が受賞したらあの原稿を使わせてもらいたい」との連絡が来るのは。そう、村上春樹がノーベル文学賞を受賞したら掲載される予定のコメントを書いたことがあるのだ。でも、毎年使われない。今年も連絡があった。さて、どうなるか。
今年は、村上春樹が例年になく活発にメディアに出演している。これまで禁断のテーマだった父親のことを書いた『猫を捨てる』、短編集『一人称単数』、さらに「村上レイディオ」というラジオ番組への積極的な出演など。ラジオは全部聴いている。なかなか面白い。でも、小説ほどではない。
このところ、加藤典洋の『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』という分厚い本を読み直している。これは凄い本だ。短編を独自の読みで大長編の評論にしている。これぞ謎解き評論とでも言おうか。濃縮された短編の背後に、こんな深い世界があったのか、ということを、独自の読みで示す。え、そうだったのか、という指摘が続出する。短編小説、というものを、読み、がどこまで深く解読できるのか。これはひとつの挑戦のケーススタディだ。たとえば「レーダーホーゼン」という村上の短編。これなど一読、さっぱり分からない。それをこう解説されると、なんだか、世界の霧が晴れたように分かった、という気になる。でも、本当に分かったことになるのか、分かりすぎるようにも思う。けれど、やはりこういう読みを、知らないでいるより、知ったうえで、この読みをどう上回れるか、もしくはこの読みの前に敗退するのか、そういう二転三転、二読三読の挑戦が必要だと思う。奥深い世界がそこにある。
さて、今年のノーベル文学賞。ぜんぜん期待していないが、さて、どうなるか。
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