旧知のNHKの牧野望さんが福岡に来られるというので、お願いして安立ゼミにゲスト・スピーカーとして来ていただきました。牧野さんと言えば、「新日本風土記」や「京都人の密かな愉しみ」「あてな夜」シリーズ、それに「アール・ブリット─人知れず表現する者たち」などの製作統括で「知る人ぞ知る」人なのです。ゼミでは、311直後の「新日本風土記」放映開始前後の秘話、「京都人の密かな愉しみ」というドラマの中になぜ料理番組が入ったのか、「京都人の密かな愉しみ」をみた京都人がいかなるクレームをいって来るのか、京都人からのスピンオフ「あてな夜」シリーズはどのように撮影されているのか、あそこで供されるお酒はいったいいくらくらいなのか、などなど、じつに興味深い話が連発されました。そして新聞やTVを(あまり)見なくなった20歳前後の若者世代を前に、放送(TV)と通信(ネット)との法律上の違い、時代や社会の変化に、NHKがどう立ち向かおうとしているのかなど、これまたじつに興味深いお話をうかがうことができました。メディア業界に関心のある学生たちも、将来の就職にも関連するので、いろいろと熱心に質問していました。
たしかに、いつの時代も「転換期」ですが、この20年くらいは、新聞やテレビ、インターネットという「メディア」業界にとっては天変地異にあったかのような激変を経験している最中なのではないでしょうか。先が見えない中で、YouTuberなど個人で発信するインフルエンサーを否定するのではなく、そうした個人発信メディアが出来ないことを追求していく、という肩肘はらない牧野さんのオーソドックスな将来ビジョンが語られました。なるほど、いいですね。
私個人の感想としては、NHKという巨大組織の内側だけで番組を作るのでなく、また「政治や報道」という領域でなく「文化や福祉」という領域で製作されてきたこと、そして巨大組織の外部にいる様々な才能ある人たちとの共同制作というスタイルを追求してきたこと、などが良質な番組を作ってこられた秘訣なのかなとも思いました。


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