ビル・エヴァンスの伝記的映画「タイム・リメンバード」を観ました。とても興味深い映画なのですが、これで「ビル・エヴァンスとは何者だったのか」が分かるかと言えば、そうとは言えません。
見終わった感じは、ちょうど村上春樹の『ノルウェイの森』の読後感に似ています。「ノルウェイの森」における「直子」がいったいどんな人なのか、読めば読むほど分からなくなるように。ビル・エヴァンスのピアノも美しいのですが、その奥の心が、読み取れません。おもてに現れた美しさと、その奥にあるはずの心とが、シンクロしていない。いや、心がそこにあるのかも定かでない……そういう感じです。ピアノの美しい演奏と、それを演奏している人とが、どこか切り離され、途絶しているとでも言うべきでしょうか。
また、人生ストーリーとしても、彼の周囲の大切な人たちがどんどん亡くなっていくところも「ノルウェイの森」に似ています。スコット・ラファロ、最初の妻、最愛の兄、などなど。しかもその多くが自殺で……
悪魔に魅入られたように最後までドラッグから抜けられなかった彼の最期がこのようであったというのも、初めて知りました。緩慢な自殺だったといいます。
登場する人たちは口を極めて彼のピアノを激賞するのですが、最後まで、彼の暗闇のことは、映画からは解き明かされません……解き明かせないというべきでしょうか。


(追伸1─日本では「ビル・エヴァンス」ですが、この発音が正しいのでしょうか。登場する人たちは、スとズとの中間、むしろエヴァンズのように発音していました。マイルス・デイビスと同じですね。マイルズ・デイビスなんでしょうね)


(追伸2─もう10年以上前に訪れたニューヨークのジャズクラブ「ビレッジ・ヴァンガード」を懐かしく思い出しました。ああそうだった、こういうところだったと懐かしく思い出しました。しかも、その時、ここで、この映画にも出演しているポール・モチアンのバンドを聞いたのでした。彼も2011年に亡くなったそうです。)


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