「大阪市宅老所・グループハウス連絡会」から勉強会に呼んでいただき「介護保険と非営利組織はどこへ向かうか─福祉系NPOのこれから」というお話しをしました。G20大阪サミットと梅雨入りの大雨で交通の影響がありましたが、熱心な皆さんにお集まりいただきました。
当日の課題は、介護保険20年でなぜNPO法人がこんなにも苦境に立つようになってしまったのか、という疑問を解くことでした。
認定NPO法人・市民福祉団体全国協議会のホームページに掲載された私の論文「介護保険と非営利はどこへ向かうか」を踏まえてお話ししました。その原因のひとつは当初の制度設計にあるのではないか。営利と非営利の事業者を区別せずに混ぜてしまった疑似市場の仕組みの結果、行動経済学のいう「市場が道徳を締め出す」現象が起きているし、「ビッグデータ」を活用して超複雑怪奇なシミュレーションを駆使して介護報酬を微調整していく仕組み、その結果、巨大な中央管理システムが、営利でも非営利でもない「半営利」の仕組みを生み出していることなどを論じました。この結果、制度(というか財政)の持続可能性は高まるかもしれないが、介護保険が一種のブラックボックスのようになった結果、当初の目的だった「市民による福祉」、住民参加や市民参加による「市民福祉」や当事者のエンパワメントなどは、蜃気楼のように見えなくなってしまったのではないでしょうか。
このような現状にたいして、小竹雅子の『総介護社会』は、障がい者の自立生活運動をモデルに、上からの押しつけパターナリズムになりやすいサービスの現物給付だけでなく「現金給付」にこそ、利用者を当事者にしていくエンパワメントの可能性があると論じているのではないか。介護保険の「改正」につぐ改正で、住民参加・市民参加型らしさを脱色されてきた中で、行政や事業者の上からのパターナリズムを克服していくこと、利用者や消費者を当事者へと転換していくエンパワメント機能にこそ、NPOらしさがあるのではないか、などと論じました。
最後に、レスターM.サラモンの『NPOと公共サービス―政府と民間のパートナーシップ』を解読しながら、現状では、行政とNPOとが「二者関係」の中で、いつのまにか上下関係や支配・被支配関係になりがちだと説明しました。サラモンによれば、NPOが行政と対等になり得るのは「三者関係」の中においてのみだといいます。アメリカの福祉システムの特徴は、行政とNPOの関係が「二者関係」ではなく、両者の上に「第三者」が存在することです。それこそ「第三者による政府」です。これは行政とNPOとが、ともに立場をこえて、互いが一種のバーチャルな存在となって「第三者による政府」を作るということです。つまり現実の上に「バーチャルな福祉システム」をつくるところにポイントがあります。バーチャルな関係ですから不安定ですが「二者関係」を超えた「三者関係」が生み出せないと、かならず行政によるNPO支配が始まることになると言います。対決や対立でなく、協力・協働するということは、このバーチャルな新しい関係を作ることだと言います。コトバの上だけではなく、半実体となった協力関係が作れるかどうか、それこそが非営利組織がこの世界に根づいて、社会を変えていくことなのではないか。そういうことをお話ししました。
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安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
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