沖縄の粟国島を舞台にした、じつに沖縄らしい映画「ナビィの恋」(1999)を観た。もう20年も前の映画だ。主役の二人、平良とみと登川誠仁も、すでに亡くなっておられる。この映画、観てみようと思わせたのは、沢木耕太郎の映画評である。『シネマと書店とスタジアム』と『銀の森へ』の両方に収録されている。
沢木耕太郎が書いていたな、くらいであまり考えずに見始めたところ、これは深く、面白い映画だということがすぐに分かった。見終わったあとで、あらためて沢木耕太郎の映画評を読むと、これがじつに正鵠を得ている。「この映画は、ナビィ(平良とみ)の恋のように見えて、じつは、恵達(登川誠仁)の恋の物語である」と述べているのだ。まさにそのとおりだった。表面的にはこの映画は、79歳のおばあ(ナビィ)の初恋のおじいとの逃避行、という筋立てなのだが、それでは受け狙いの底の浅いストーリーだ。とても説得的な脚本とは思えない。そうではなくて、この映画が、恵達のナビィへの想いの深さを描いた映画だとすれば、これはじつに深くて沖縄的な説得性をもった映画と見えてくる。
沢木耕太郎も書いていたが、役者の平良とみ(「ちゅらさん」の有名なおばあ役)を上回っているのが、唄者の登川誠仁なのだ。登川誠仁ぬきには、この映画は成り立たなかっただろう。その点でも沢木耕太郎の映画評は慧眼だった。
付け加えれば、「ちゅらさん」は波照間島の話だった。粟国島はさらにそれよりも話題になりにくい離島である。こうした離島にこそ、楽園がある、というメッセージでもあるだろうか。おそらくそうとばかりも言えないのだろうが、しかし、この映画を観たあとでは、そう信じたい、そう信じてあげたい、という気持ちにつき動かされる映画なのだ。


Share →