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演劇世界で今もっとも注目されているという宮城聡の演出で「ミヤギ能 オセロー ~夢幻の愛~」を観てきました。これは13年ぶりの再演、しかも新演出とのことで斬新かつ深い演出になっていたと思います。13年前は東京の国立博物館前でやったそうです。あそこは背後にある徳川家の墓所、寛永寺への人びとの視線を遮るために明治政府が巨大な建築物を構想し、大正・昭和とかかって建築されたものだそうです(そんなこと知らなかった…)。今回は静岡(もまた徳川家康の「地元」ですが)芸術劇場という劇場空間なので演出も変わったそうです。
シェイクスピーのオセローを、オセローを主人公として演出するのでなく、デズデモーナを複式夢幻能のシテとして、オセローとの物語を旅人の僧に語り聞かせ、鎮魂されて成仏して消えて行くという筋立てになっています。
これまで、夢幻能というものをほとんど観たこともなかったのですが、今回のこの演出は素晴らしい効果をあげていたと思います。シェイクスピア劇ではほとんど表に出て来ることのなかったデズデモーナをシテとして浮かび上がらせ、しかも語り手と演じ手とを分離することによって、能の形式で、殺される側からみたオセローの悲劇が、また別の姿をとって浮かび上がってくる。しかもシテはたんに誤解と嫉妬によって無念にも惨殺されたのでなく、ある意味で死へ向かっての救済があった、という解釈の演出。音楽というか、パーカッションもじつに効果的に感情の揺れ動きを表現していました。これは、じつに、おもしろい。いままで観たことのない演劇世界です。美加里さんという演じ手も、はじめて見たのですが、じっさいは小柄なのに、舞台ではとても堂々と大きく見えました。これは素晴らしく新解釈されたオセローだし、能という演劇の新しい可能性を、たっぷりと堪能させてくれる演出でした。