『グランド・ブダペスト・ホテル』を、ようやくDVDで観ました。3月に見始めたのですけれど海外に出かけたりして途中までしか見ていなかった。それを今回、あらためて見直しました。
これは、文句なく、面白い。ストーリーは分かりやすいサスペンス仕立てのどんでん返しもの。役者も達者、最後までどんでん返しがつづく。でも、見所は、かならずしもストーリーではなくて、このグランド・ブダペスト・ホテルという舞台の設定こそが素晴らしいのだと思う。人里離れた山のうえにある豪華でミステリアスな、そして衰微し崩壊しはじめているグランドホテル。この「グランド・ホテル」こそが主人公です。これが第一次大戦によって決定的に衰微し、第二次大戦によってとどめを刺されたヨーロッパ文化のメタファーであることは間違いないでしょう。しかもその中枢にはユダヤ系の富豪や作家が関わっている……。「グランド・ホテル」を守ろうとする人たちには、みんなどこかユダヤ的な悲劇性が漂っていますね。映画の最後のクレジットに「シュテファン・ツヴァイクの作品にinspirationを受けて」と出て来ます。ツヴァイクこそ当時、ユダヤ的知性として有名で、「昨日の世界」でヨーロッパ文化が「昨日の世界」になって消え去りつつあることを書いていました。ツヴァイクは、ザルツブルクの丘の上に見事な屋敷をかまえ、そこで「人類の星の時間」が書かれ、ロマン・ロランらが訪ねてきていたといいます。このザルツブルクのカプチーナベルクの丘の上にあるパッシンガー城には、私も間近まで行ったことがあります。中には入れませんけれど。眼下には、モーツァルトが生まれた街が、川の向こうにはホーエン・ザルツブルク城の丘が見えるまさに絶景のところでしたね。ああここが「人類の星の時間」なのかと思ったことでした。


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