ソ連の監督ジガ・ヴェルトフの「レーニンの3つの歌」(1934→1970再編集版)を観た。1930年代のソ連、のちにスターリンによって抑圧されることになるジガ・ヴェルトフ監督による「すごく興味深い」プロパガンダ映画だった。レーニン没後10周年記念に作られたらしい。たしかに革命の祖レーニンをひたすら賛美し神話化することを目的とした「単純な」プロパガンダ映画なのだが、であるがゆえに非常に興味深いのだ。そもそもレーニンの後継者スターリンの姿がどこにも見えない。レーニンは晩年に、スターリンとの確執で、すでに実権を失っていたらしい。その死後10年してスターリンの権力基盤は盤石だったからだろう。何の心配もなくレーニンを神話化したのではないか。そして、この映画を撮ったジガ・ヴェルトフも、やがてスターリンの反ユダヤ主義で映画を撮れなくなっていたという。
映画の冒頭、ロシア時代の中央アジアの「遅れて封建的な宗教に支配された」ムスリム信徒たちが、レーニンと革命によって「解放される」姿を嬉々として撮影しているのも、のちの冬の時代(たとえばアンドレイ・タルコフスキーの「鏡」などに出てくる恐怖政治)を思うと胸が突かれる思いがする。

それにしても、これでもかと、レーニンのデスマスクをたった60分の映画の中に、これほど何度も映し出すというのも、私たちの感覚から並外れている。レーニンの遺体をいまだに保存しているというのも、ロシアならではのメンタリティなのだろうか。


レーニンの3つの歌

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