では「呼びかけ」を聴くということ、それはどういう経験なのか。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」がそのエッセンスを伝えています。ジョバンニは「銀河鉄道」に乗って宇宙の果てまで行こうとしたのですが、宇宙の果てまでいくことが目的だったのでしょうか。そうではないと思います。
「銀河鉄道」の中で、死者の語る「声」に耳を澄ませていたのではないでしょうか。つまり「銀河鉄道」は死者からの「呼びかけ」を聴く場所、まさにコール&レスポンスの起こる場所だったのではないか。宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」も、宮沢賢治を非常に意識しつつ、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を現代社会の中で乗り越えたいという強い想いから作られた映画と言えます。「千と千尋の神隠し」では「神隠し」のこのセカイの中で、カミは天空にいるのではない、宇宙の果てにいるのではない、むしろこのセカイの中に、このセカイの奥深くにこそいるのだ、そういう世界観を描いているのではないでしょうか。湯屋という現代の歪んだセカイから脱出した千尋が「水中鉄道」に乗るのは、そのためではないでしょうか。千尋もまた、水中鉄道の中で死者からの「呼びかけ」に耳を澄ませているのではないでしょうか。


Share →