就職氷河期と言われるこのご時世、社会学の学生でも、公務員・行政職志望が増えている。聞いてみると、公務員なら結婚しても出産しても働き続けることができる、安定した職場だ、男女差別がない(少ない)、全国各地を転々とするような転勤がない、などというところが志望動機のようだ。たしかに職場の条件として、こうした長所のある職場だろう。でも、それだけでけか。そもそもなぜ公務員を志望するのか、公務員としてやってみたい仕事とは何なのか、そういう「仕事」としての側面はほとんど考えられていない。公務員の仕事について何ら具体的なイメージなしに、職場条件としての公務員だけで志望し、やりたい仕事のイメージもなしに公務員になっていってはたして良いものか。そういうことは、公務員志望の諸君には、よくよく考えていただく必要がある。
 さて、紹介する大谷信介編著の『これでいいのか市民意識調査』(ミネルヴァ書房)は、こうした公務員の仕事の内容について考えるうえで、たいへん示唆に富む。公務員志望の社会学学生にとっては「必読」の書である。
 本書において、大阪府内の多くの自治体の行った「市民意識調査」を収集・分析して、そこから自治体の行う市民意識調査の問題点をえぐりだしている。読んでみると、これはスリリングであり、エキサイティングであり、なるほど、そうだったのか、たしかにそうだ、というやんやの喝采であり、これはいかん、これから公務員になる学生には、こういう役所の実態をしかと認識して、こうした現状を打破するために、社会学や社会調査をもーれつに勉強して、役所を内側から改革していっていただきたい、とせつに願うようにさせる本である。
 私にも、福岡県下のいくつかの自治体のアンケート調査を、委員として手伝った経験がある。その経験から言えば、まさに、大谷さんのこの本での経験は、福岡県でもあてはまり・・・おそらく全国の自治体(かつては3300以上あったが、現在では・・・)のほとんどすべてであてはまる実態ではないだろうか。
 ということは、おそろしいほどの税金が、まったくムダな調査のために費やされている可能性があり、多くの貴重なデータが死んでいる可能性があり、そのために自治体の施策や方向性が歪んでいる可能性がある、ということである。
 これは重大事だ。だったら自治体は、市民意識調査などやめてしまえ・・・とはならない。
 そうではなくて、アンケート調査や社会調査や統計や分析に、もうすこし深い知識と見識とスキルをもった学生が、自治体職員となってがんばれば良いのである。そうすれば、現在の自治体は、飛躍的に大進歩する・・・とはすぐには言えないまでも、だいぶましになるのではないだろうか。
 という意味において、この書は、社会学学生、とくに公務員志望の社会学学生、またこれから社会調査実習に入る学生にとって「必読」の書であり、この書をてこにして、ぜひ社会学や社会調査実習に力をいれて、そのうえで公務員になっていってもらいたいとせつに願わずにはいられない本なのである(べつに公務員になることを薦めているわけではありません。でも社会学学生の三分の一くらいが公務員志望になっている現状では、せめてこの本くらい読んだうえで公務員になっていってくれよ、と願うばかりです)。


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