加藤典洋『村上春樹は、むずかしい』(岩波新書)を読みました。いいですね、これ。
超ベストセラー作家になったおかげで、面白くて分かりやすいが、浅くて深くない作家として、批評家からは冷淡に扱われる「村上春樹」が、じつは、たいへんに深い作家であることを論じる本です。
むずかしくないと、浅いと思われがちだ。けれど、ほんとうは深い。村上春樹を、ほんとうの深さまで理解するのはむずかしい。そういうことを述べています。
一例として、阪神・淡路大震災のあと、村上春樹が、アメリカから帰国して、被災した地元、芦屋で自作の朗読会をした事例が取り上げられています。ふうん、震災のあと、地元への支援で朗読会をしたのか、くらいに思っていました。でも、その時に朗読された短編「めくらやなぎと、眠る女」が、どういう作品だったかは、知りませんでした。しかも、以前に発表されたものに、非常に重要な改作を施されていたことも重要で、対照させて示されています。なるほど、そうだったのか。これは、深い。
その他、初期短編の「中国ゆきのスローボート」などに見られる中国への深い関心(なぜ村上春樹が中華料理やラーメンを食べられないかが、これで分かった)。同じく意味の分からぬ短編の「ニューヨーク炭鉱の悲劇」が、なんと、日本の内ゲバの死者のメタファーだったのではないかという解読など、あらためて、多くを教えられました。
なるほど、小説もここまで深く解読することが出来るのだなぁ。深読みしすぎたという人がいるかもしれないけれど、これは、深読みしたほうが、正しい。そのほうが、ぜったい面白い、そういう読み方ですね。


村上春樹は、むずかしい

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