稲垣えみ子さんという元朝日新聞の記者さんが書かれた『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』(朝日新聞社)を読みました。これは一気に読みました。じつに深い、じつに考えさせられる、そのうえ、出来そうで出来ないことをやっておられる。いや「出来そうで」どころではない、とうてい出来そうもないことを、あっさり(本当はあっさりでないことは書かれているとおりだが)行動として乗り越えている。これは、すごい。ジャーナリスト志望者だけでなく、誰もが読んでみる価値がある。
大きなストーリーを見ると、東日本大震災と原発事故をきっかけに、節電生活をはじめて、暖房も冷蔵庫も洗濯機も使わなくなった生活を縦軸に、髪型をアフロにしたとたん、時ならぬ「モテ期」がやってきたり、新しく見えてきたことがたくさんあったということを、自分のメセンで考え、書かれているのです。そのきっかけになったのが、朝日新聞・大阪社会部時代に経験した「橋下現象」にあったことも書かれています。
橋下知事やがて橋下市長の時代の大阪の社会部デスクとして、たいへんな苦労をしてこられたことがしのばれます。しかもその対決が朝日新聞にとって連戦連敗だったという時代です。正しいと信じてやっていることが、世間からまったく逆の反応を引き出していってしまう。その意味で連戦連敗だったのです。「負けているのに負けていない」そう考えてしまう新聞社の流れにたいして、当事者としての社会部デスクが、じつに率直に負けを認め、深く考えて反省しながら、でも、どうして橋下が支持されるんだ、なぜ橋下に勝てないんだ、という叫びんでいるのす。
これは、ある意味、現在の私たちに共通の、社会に対する問い、社会に対する質問ではないでしょうか。
なぜ、正しかったことが正しくなくなってしまうのか。なぜ、こうなのか、なぜ、こうなってしまうのか。
しかも、もうひとひねりがあります。いわゆる朝日の誤報問題やさらなる逆風の中で、会社は検証と反省にたって、正しい報道へと社をあげて取り組む。すると、ますます、大文字の「正しさ」からはずれて、小文字の「正しさ」へと萎縮していってしまう……
その後にもいろいろあって稲垣えみ子さんは、50歳にして退職されるのですが、その退職も、受動的な退職でなく、前々から準備して計画していたことのようです。
考えている以上のことを行動が示している。そう感じました。
考えての行動もあるかもしれませんが、行動がラディカルで、そのあとを思考が追っていくタイプの方なのかもしれません。すごいですね。だから私たちも、書かれている以上のことを読むことができる。
この稲垣えみ子さん、この週末、29日に福岡にいらっしゃいます。天神で開催される福岡ユネスコ文化セミナーに登壇されます。今から、お会いするのが楽しみです。



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