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新年あけましておめでとうございます。大晦日の夜、私は、紅白歌合戦の裏番組?として放映された──おそらくほとんど観た人はいないのではないかと思われる番組を観ていました。それは、なんと、放送大学の番組です。放送大学がBS231で放映しているのを観ている人はあまりいないと思いますが、その放送大学の、よりによって大晦日の晩に、私の大学時代からの友人の野崎歓先生が、フランス映画の歴史的名作「天井桟敷の人々」の解説者として登場されたのです。先日、2年ぶりの東京でお会いした時に、紅白歌合戦の裏番組に出演するから、とのことで録画していたのですが、紅白よりもきっと面白いと思って、オンタイムで全部見てしまいました。午後8時30分から深夜0時30分まで、野崎歓さんの2度の解説をはさんでなんと4時間の番組です。マルセル・カルネ監督の1945年の「天井桟敷の人々」──数十年前に一度観たことがありますが、ほとんどあらすじすらも覚えていませんでした。今回、あらためて見直してなかなか凄い映画だと思いました。前回はジャン・ルイ・バローが主役かと漠然と思っていましたが、全然そうでない。主役はギャランス(アルレッティ)さんでした(ガランスとギャランスと中間くらいに聞こえる)。くわえて、野崎歓さんの解説が秀逸!ヒロインのガランスは「フランス」である。そのフランスの理念「自由・平等・博愛」は「自由・平等・恋愛」と読み替えられて、ナチス占領下のフランスでレジスタンス映画として撮影されたのがこの映画だ、という驚きの展開。なるほど、こういう解釈は、そう解説されないと、絶対にそうは読み取れないでしょう。しかし、解説されると、なるほど、すとんと腑に落ちた──そういう驚きとともに新年が明けました。今年も、よろしくお願いいたします。


小倉駅近くの「秘密基地」というカフェで行われた野崎歓さんの講演、「文学の国、フランスへのお誘い」(11月23日)は、今年のフランス大統領選のエピソードから始まりました。マリーヌ・ルペンとエマニュエル・マクロンとの直接対決に決着をもたらしたものは、意外なことに「文学」だった、というサプライズ。ルペンのトランプ的な論理に「ペルランパンパン」という17世紀の単語で反撃したマクロン、他方「文学」をまるで理解できなかったルペン。マクロンに勝利をもたらしたものこそフランス文学だったという実に意外な観点から、いまだにフランスが文学の国であることを説かれました。なるほど、そうだったのか!、と一驚でした。そもそもフランスという国家やフランス語は17世紀に出来上がったもの。英語よりフランス語が高級で優勢で、ヴェルサイユ宮殿を造ったルイ14世のころから、「宮廷」のコトバ、フランス語がヨーロッパ各国の宮廷を席巻していったという歴史も、なるほどそうだったのか! とひざを打ちたくなるほど。だめ押しとして、トルストイやドストエフスキーもフランス語でバルザックを読んでいた、などとなると、もうびっくり仰天ですね。

翌日の「フランス文学と愛」(11月24日)は、ごく少数のフランス語およびフランス文学愛好者だけの小さな会でしたが、こちらの講演もじつに楽しく、じつに考えさせる内容でした。フランスでないフランス語圏、スイスのジュネーブからやってきたルソーが、フランス思想界やフランス文学界を「なぎ倒して」席巻してしまったさまを、じつに楽しいユーモアで包んで話されました。ルソーこそ「回想録」でない「自伝」文学の創始者だったこと、はじめて「子ども時代」が人間形成のうえで重要であること主張したこと、それにも関わらずみずからの子どもはすべて孤児院に送ってしまったという矛盾、さらに年上の人妻との「アムール」というフランス文学界の大伝統をつくったこと。以後のスタンダールもバルザックも、ロブ・グリエにいたるまで、「ルソーになぎ倒された世代」であること。スタンダールの「赤と黒」にもバルザックの「谷間の百合」にも、みんな「ルソー印」がついていること、などなど、実に楽しく巧みに、しかし「なるほど、そうだったのか!」と手を打ちたくなるほどの創見にみちたお話しでした。そして極めつけは20歳以上の年の差ある「マクロン大統領」の奥さんと文学好き。そして最後に「サプライズの隠し球」として「ミッテラン大統領」の愛人と隠し子事件。その当事者が、ついにミッテランとの手紙のやりとりを大冊にして出版したこと。ここにも脈々とフランス文学の伝統が息づいているのだというお話しでした。そして、だれでもフランス人になれる、だれでもフランス文学に参加できる、そういう開かれた「共和国」の理念の大切さについても語られました。テロリズムに襲われたフランスだからこそでしょうね。


北九州市の「秘密基地

福岡・箱崎の「ブックス・キューブリック箱崎店」

北九州の「コワーキングスペース秘密基地」という魅力的な名前の会場で、フランス文学の野崎歓さんによる「文学の国フランスへのお誘い」。私も福岡から駆けつけます。



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