映画「アラビアのロレンス」の印象的なシーン──ロレンスたちはトルコ軍の基地のあるアカバ襲撃のため、部隊をひきいて過酷な砂漠を大縦断している。ふと気づくと一人の男(ガシム)がラクダから落馬して行方不明になっている。ロレンスは探しに戻ろうという。ベドウィンの男たちは、それは自殺行為だと反対する。ロレンスはひとりで砂漠に探しに戻る。そして瀕死のガシムを救い出す。その結果を見てベドウィンたちはロレンスに対する見方を一変させる。彼を「救い主」のように見るようになり、部隊の団結が強まっていく。ここは聖書の一節「迷える子羊」をほうふつとさせるシーンだ。99匹の羊をさしおいて1匹の迷える子羊を探しだす──これはイエスの宗教行為のメタファーになっている。このエピソードを、コロナ危機における救命医療の「トリアージ」と対比させて、ぜひ考えてもらいたくて、先週の授業で取り上げた。賛否両論、侃々諤々。でも、それこそ社会だし社会学なんじゃないか。全員一致でガシムを見捨てる社会よりは。


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