◆沈思黙考とメインテーマ
学生たちが、社会調査実習で、インタビューに出かけるので、どう準備したら良いか、どんな質問をしたら良いか、と尋ねてきた。
どういうことを聞いたら良いか、それをじっくりと「沈思黙考」しようよと、と答えた。
社会調査実習は、いわば「社会」に出かけて、「社会」の中で人に出会って、「社会」に関する様々な問題や課題を、手探りしながら「発見」していく実習だ。事前に、いろいろ不安になって、準備したい気持ちは、分かる。
でも、今回のインタビューは、日程が決まったのが直前で、ほとんど時間的な余裕がない。
だったら、いまから、本を調べて読んで・・・としている時間的余裕はない。
こういうときこそ、沈思黙考、だ。
ふだん、われわれは、忙しく、じっとだまって考えることが少ない。
でも、どうしたら良いか分からない時、重要な案件がせまっていて、自分の考えを作らなければならないとき、大切なことが何なのか分からなくなってきた時こそ、「沈思黙考」が必要なのだ。
学生を見ていると(学生でなくてもそうだが)、みんな忙しさを口実に、自分で考えるという苦しい作業を、逃げてしまいがちだ(自戒を込めて、こう言う)。忙しい時は、じつは、楽なのである。やるべきことが明確で、時間は足りないが、何をしたら良いかで思い迷うことはない。ただ目前の作業をすれば良いのだから、ほんとうは、たいへんではない。
ところが、やるべきことが不明確な場合、でも何かしなければならない時、これこそ大変なのである。何をすべきか、じっくりと「自分で考えなければならない」。そして「その結果は、自分で引き受けなければならない」。これは、じつは、困難な作業なんだ。
今回の、インタビューをする、ということは決まったけれど、何を聞いたら良いか分からない、という状況が、まさに、それだ。
そういう時に、人は、誰かに「どうしたら良いでしょうか」と頼ってしまう。誰かが「こういうことを、こういうふうに、聞いたら良いよ」と答えてくれることを期待してしまう。でも、こんな風に「教えてもらう」ことから、いつかは脱却しなければならない。社会調査実習は、そういう、またとない機会なのだ。
そのためにも、沈思黙考から始めることが、大切だ。
「聞く」まえに、まず、考えること。「調べる」まえに考えてみること。
しかし気をつけよう、1分で考えつくことは、1分で消え去るような「思いつき」かもしれない。
でも、1時間考えたこと、1週間考え続けたことは、そうかんたんに消え去るような思いつきではないはずだ。
一ヶ月や何年も、考えてきたこと、それは、自分の本当の問題関心ではないだろうか。
自分の本当のテーマ、自分の深いところからわき起こる関心、そうかんたんには消え去らないような、思いつきとは違った、人生に関わるようなテーマ・・・ちょっと大袈裟になってしまうが、大切なこと、後まで残ることって、そういうことなんだと思う。
いっときの思いつき、一時のひらめき、たんなる関心、ではだめです。持ちません。耕すことも、深めることも、熟成させることもできません。
だからこそ、時々、沈思黙考が必要なのです。
でも、やってみなさい。
沈思黙考、じつに難しいことなのだ。
かんたんなものじゃない。
たったの5分でも、無念無想、自分にとっての根本的なメインテーマとはなにか、考え続けられるだろうか。
やってみてほしい。
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安立清史(「超高齢社会研究所」代表、九州大学名誉教授)のホームページとブログです──新著『福祉の起原』(弦書房)が出版されました。これまで『超高齢社会の乗り越え方』、『21世紀の《想像の共同体》─ボランティアの原理 非営利の可能性』、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会)などの著書があります。「超高齢社会研究所」代表をつとめています。https://aging-society.jp/ 参照
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